ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Elizabeth Taylor の “Mrs Palfrey at the Claremont”(1)

 1971年のブッカー賞最終候補作、Elizabeth Taylor の "Mrs Palfrey at the Claremont"(1971)を読了。この Elizabeth Taylor(1912 - 1975)はイギリスの女流作家で、同名の女優とは別人。本書は2005年、ダン・アイアランド監督により映画化され、日本でも2010年に『クレアモントホテル』との邦題で公開されている。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★★] 幕切れの「うそから出たまこと」には泣けた。ユーモラスでコミカル、かつ皮肉のワサビがぴりっと効きながら、ぐっと心にしみる。まさに人生の喜怒哀楽のエッセンスが詰まった絶品である。とうに夫を亡くした老婦人、ミセス・パルフリーがロンドンのクレアモントホテルに長逗留。似たような境遇の老人、老婦人たちは詮索好きで口うるさかったり、はたまた色目をつかったり。コミュニティのなかで体面を保つべく、ミセス・パルフリーは、たまたま知りあいになったハンサムな貧乏青年ルードヴィックを自分の孫としてホテルに招待する。以後、老若男女がいり混じる軽妙な寸劇が連続。思いこみ、すれちがい、からまわり。話者や視点、場面の切りかえが鮮やかで、それがそのまま、見栄やプライドと嘆きや嫉妬など、いわば本音とタテマエの絶妙なコントラストをなしている。しかもテーマは、刊行から半世紀以上たったいまでも非常に今日的だ。配偶者に先立たれたあと、ひとはいかに孤独に耐え、どんな老後を送ればいいのだろう。むろん本書から答えを得ることはできない。しかしこの、ホテルで一年をすごしたミセス・パルフリーの春夏秋冬記と、ルードヴィックをはじめ、彼女をめぐる人びとの群像劇を読めば、いつか同様の状況に遭遇して、ああなるほど、と思い当たることがあるかもしれない。あなたの人生先どり篇である。