"Bleak House" を読みきった日の夜、寝床のなかで阿川弘之の『山本五十六』も読みおえた。こちらはほぼ五ヵ月がかり。去る二月、五十六が開戦時に乗艦していた戦艦長門のプラモを製作したのがきっかけで読みはじめた。
これで阿川の提督三部作をぜんぶ読んだことになる。三人の海軍大将のなかでは、ぼくは井上成美の生涯にいちばん感銘をうけた。中高生のころ、こんな先生に英語を教えてもらいたかった、と恩師たちには失礼ながら思ったものだ。
提督五十六の戦争体験の山場は三つある。真珠湾攻撃とミッドウェー海戦、ブーゲンビル島上空での戦死。どれも「偶然の必然」といえるかもしれない。いろいろ偶然の事象が重なった出来ごとでも、そこには運命の赤い糸が読みとれる。奇襲時の真珠湾に米空母は一隻もいなかったのが一例だ。むろんこれは阿川を読んだだけの素人の感想で、実際のところはわからない。
『井上成美』だったか『米内光政』だったか、ともあれ阿川によると、開戦時、第四艦隊司令長官だった井上は真珠湾攻撃直後、作戦成功の祝いを述べた部下をバカもの呼ばわりしてたしなめたという。三人の提督には運命がはっきり見えていたのだろう。
いまぼくは朝ドラ『あんぱん』を録画で毎晩見ている。舞台がぼくのふるさとの隣県、高知ということで興味がわいた。高知には友人が住んでいるし、学生時代から足摺岬をはじめ、彼のバイクや車でなんどもドライブに連れていってもらった。
やなせたかしもアンパンマンも、いままであまり関心はなかったけれど、ドラマそのものは目が離せない。日本の戦争映画の定石どおりで鼻白むシーンもあるが、それは無視。今田美桜は堀北真希にちょっと似ていますな。『梅ちゃん先生』、あれはとても面白かった。
さて表題作、「配偶者に先立たれたあと、ひとはいかに孤独に耐え、どんな老後を送ればいいのだろう」というのがテーマだけど、『あんぱん』の朝田のぶは柳井嵩と再婚することになっている。
が、いわゆる戦争未亡人は戦後の日本にも数多くいた。彼女たちを描いた小説は未知で未読だが、あるとすればどうも暗い話ではないかと想像され、不謹慎かもしれないけれど気乗りがしない。未亡人は出てこないが、戦争と女性というテーマなら、ぼくには『ゼロの焦点』でじゅうぶんだ。
同じ未亡人でも、老い先みじかい Mrs Palfrey のクレアモント・ホテル逗留記、いやあ、これは「ユーモラスでコミカル、かつ皮肉のワサビがぴりっと効きながら、ぐっと心にしみる。まさに人生の喜怒哀楽のエッセンスが詰まった絶品である」。
なにより、「軽妙な寸劇が連続」するところがいい。ネットで老人・高齢者むけの推薦図書を検索してみたが、邦訳『クレアモントホテル』は見当たらなかった。もっとよく調べたら、どなたか推薦されているかもしれませんな。(つづく)
