今週はめずらしく三回も外出。ジム二回のほか、『ミッション:インポッシブル / ファイナル・レコニング』を見にいった。こんども「そんなん、ありえへんやろ」というアクション・シーンの連続で、トム・クルーズの生還シーンなど吹きだしそうになったけど、ま、ヒーローが生きのこるのはお約束ごとですな。
ともあれ映画館の行き帰り、それからバスはもちろん、ジムのあとに寄るスタバでも、Elizabeth Strout の "Tell Me Everything"(2024)を読んでいた。ご存じ今年の女性小説賞最終候補作で、いまアマゾンUSで検索すると、Literary Fiction 部門で83位。こんなベストセラーを読むのはひさしぶりじゃないかしらん。
さて、同じ Elizabeth でも Taylor のほうの表題作はとにかくゴキゲンな快作だった。前回紹介した邦訳『クレアモントホテル』は2010年10月刊(未読)。おそらく同名映画の日本公開(同年12月)にあわせて先行発売されたものと思われる。
公開が決まったいきさつは未チェックだが、アメリカで2005年に映画化された理由もわからない。本書が刊行されたのは1971年。どうしてそんなタイム・ラグが生じたのだろう。どうでもいいけど、フシギといえばフシギだ。
それはともかく、主演女優はジョーン・プロウライト。『わが心のボルチモア』(1990)にも出演したそうだが、ぼくは一度しか見たことがなく記憶にない。経歴を調べると、なんと、かの名優ローレンス・オリヴィエの最期まで奥さんだったそうだ。きっと、このオリヴィエ夫人も演技派だったんでしょうな。
しかしぼくの知っている女優でいえば、Mrs Palfrey にふさわしいのはまず、ハリー・ポッター・シリーズでおなじみのマギー・スミス。四月に読んだ "The Prime of Miss Jean Brodie"(1961 ☆☆☆★★)の映画化作品、『ミス・ブロディの青春』(1969)でアカデミー賞主演女優賞を穫っている。
ついで、やはりアカデミー賞に輝く大女優エリザベス・テイラー。ほぼリアルタイムで見た『クレオパトラ』(1963)の印象が強烈だが、『バージニア・ウルフなんかこわくない』(1966)の演技もすさまじかった。「鬼気せまる」映画という双葉十三郎の評は的確だ。作者と同名なんだから、むしろリズに Mrs Palfrey を演じてもらいたかったですな。
がしかし、2005年当時のリズは83歳。マギー・スミス、81歳。ジョーン・プロウライト、76歳。やっぱジョーンか。
ともあれ Mrs Palfrey は老いた未亡人。富裕層ではないようだけど、二流ホテルとはいえ長逗留するだけの経済的余裕がある。とくれば一定のリスクが連想され、たとえば羊の皮をかぶった狼の餌食になりそうだ。Ludo was home already. Down in the dark basement she saw him pass across, wearing the sweater she had knitted for him. She would not dream of calling, but she stood by the railings for a moment and waved./ Instead of Ludo, a girl wearing his sweater, came to the window and stood looking up, holding back the curtains on either side of her./ Mrs Palfrey nodded curtly and walked on. She felt commotion and could not sort out what she was feeling, only knowing that she had made a fool of herself. ..., feeling breathless with jealousy. She wished that she had taken another direction.(p.101)
Ludo は Mrs Palfrey がひょんなことから出会ったハンサムな貧乏青年で、歩道に面した半地下の部屋に住んでいる。あら、わたしの編んだセーターを着てるわ、と一瞬胸が高鳴ったあとの失望。このシーンが映画に出てくるかどうかは不明だが、上のくだりからは画面いっぱいにクロースアップされたリズの顔がうかんでくるようだ。あぶない、あぶない。
本書は Mrs Palfrey のホテル逗留記だけに、彼女と似たような境遇の老人、老婦人たちがロビーやレストランに集まり、それぞれの言動が「見栄やプライドと嘆きや嫉妬など、いわば本音とタテマエの絶妙なコントラストをなしている」。
そうした各自の「人生模様が鮮やかに浮かびあがる」点はいわば「ホテル小説」の定番だが、本書がいっとうすぐれているのは上の Ludo の扱いだ。ぼくは当初、サイコサスペンスかと思ったのだけど、実際は、「ぐっと心にしみる」ものでした。(つづく)
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