今年の女性小説賞最終候補作、Elizabeth Strout の "Tell Me Everything"(2024)を読了。さっそくレビューを書いておこう。
[☆☆☆★]「病める大国アメリカ」といわれてひさしいが、アメリカはじっさい相当に病んでいるのかも、と思ってしまった。さまざまな病的状況が描かれているからではない。ヒーリング小説がベストセラーとなるのは、それだけ人びとが苦しみ、悲しみ、孤独で、絶望のふちにあるからではなかろうか。むろん、ここには処方箋はない。「それが人生」、「愛は愛」。およそ答えとはいえない答えだ。が、答えは見つからなくても自分の悩みをだれかに打ち明けたい。「なにもかも話してごらん」といってくれる相手が欲しい。離婚、不倫、性的虐待、断絶、肉親の死。全篇、「トーキング小説」といっていいほど語りの連続である。メイン州の田舎町で弁護士ボブ・バージェスが老作家ルーシー・バートンと語りあう。ボブは母親殺しの嫌疑をかけられた青年と、ルーシーは老人ホームで元中学教師オリーヴ・キタリッジと語りあう。そこからさらに多くの人びとの「悲しみの輪、罪の輪」がひろがる。日常茶飯の話題ゆえ、ふかく共感するエピソードもひとつはあろう。なるほど、「愛は愛」。ボブとルーシーのプラトニックラブが泣かせる。トーキングこそヒーリング、という平凡な真実を衝いた佳篇である。
