アルゼンチンの作家 Manuel Puig(1932 - 1990)の "Kiss of the Spider Woman"(1976, 英訳1979)を読了。周知のとおり本書は世界的ベストセラーで、のちに作者自身の手で戯曲化。1985年にはエクトール・バベンコ監督により映画化され、日本でも1986年に公開。また1993年にはブロードウェイでミュージカルとして上演され、日本でもいままで計五回上演されるなど、人気演目となっている。さっそくレビューを書いておこう。(追記:過去記事「ゲイ小説名作選」に転載しました)
[☆☆☆☆] 愛とは永遠に相手の心のなかにいつづけること。けっして目新しいメッセージではない。が、夢か錯乱か、現実と非現実が融合するマジックリアリズムの世界でひびく愛のことばは感動的だ。この強烈な終幕はいわば蜘蛛の巣の中心で、途中のもろもろの恋愛劇に登場する恋人たちはみな、蜘蛛女が張りめぐらした糸にからめとられたかのように、糸のあちこちに点在している。ただ、それぞれの劇はどれもメロドラマで、男と女の痴情のもつれが描かれているにすぎない。しかしそれがゲイの服役囚モリーナの語る映画、つまり劇中劇として提示されることで平凡さが薄れ、かえって愛の真実を暗示。モリーナは「この映画の話をすると気が滅入る」と嘆き、それを同房の政治犯ヴァレンティンが慰める。これまた現実と非現実が融合した瞬間であり、やがてふたりは究極の愛の世界へとはいっていく。いまや古い話だが、それでも心を打たれるのは、マジックリアリズムや劇中劇、全篇ほとんど対話形式という凝った衣装をまといつつ、彼らの純愛がストレートに伝わってくるからだろう。「愛は勝つ」のである。
