今年の女性小説賞受賞作、Yael van der Wouden の "The Safekeep"(2024)を読了。Yael Van Der Wouden(1987 - )はオランダの作家で、本書は彼女の処女作。
また本書は昨年のブッカー賞最終候補作でもあったが、年末に同賞関連のランキングを公表したさいは「未読につき番外」。女性小説賞の受賞もすぐには気づかず、あやうくずっとスルーしてしまうところだった。
しかしながらやっと catch up した結果、上のランキングを更新、これを1位に推すことに決めた。以下のレビューを書きおえたら、過去記事に転載、記事内容も加筆修正することにします。
[☆☆☆★★★] 泣ける。泣かずにいられようか。さいごは甘いメロドラマだが、これ以外の結末はありえない。冒頭、イザベルが屋敷の菜園で見つけた皿の破片は母の遺品だった。それがなぜここに? そんなちいさな謎がいくつか重なる一方、謎と相まってサスペンスを醸成させているのがイザベルをめぐる人間関係だ。家を離れた兄と弟、彼女に思いをよせる男、通いのメイド。彼らとイザベルとのあいだにはつねに緊張が走り、惹きこまれる。やがて兄が恋人のエヴァを紹介。イザベルはひと目で毛嫌いするが、兄の頼みでやむなく屋敷にエヴァをしばらく宿泊させることに。このイザベルとエヴァの「対決」は息つくひまもない展開で、先がまったく読めない。やがてもちろん「対決」の真相は明らかになる。が、それがわかったときの衝撃はあまりに強烈だ。それまでの細部、たとえば上の破片にすら深い意味、二重の意味があったとは。しかもその謎解きは涙なしには読めない。第二次大戦中のユダヤ人の悲劇を描いた作品は数多いが、一本のスプーンにまで悲劇が凝縮されている例は本書のほかに思いあたらない。「さいごは甘いメロドラマだが」、甘くてなにがわるい!
