ブッカー賞ロングリストの発表が目前に迫り、現地ファン投票の集計結果が公表された。
Nesting by Roisin O’Donnell– 58 votes
The Book of Records by Madeleine Thien – 52 votes
Audition by Katie Kitamura– 50 votes
Our Evenings by Alan Hollinghurst – 46 votes
Endling by Maria Reva – 45 votes
We Pretty Pieces of Flesh by Colwill Brown – 39 votes
The Loneliness of Sonia and Sunny by Kiran Desai – 37 votes
Flesh by David Szalay – 35 votes
The Dream Hotel by Laila Lalami– 33 votes
Ripeness by Sarah Moss – 32 votes
Helm by Sarah Hall – 30 votes
The City Changes Its Face by Eimeear McBride – 30 votes
Edenglassie by Melissa Lucashenko – 27 votes
見ると、Endling をはじめ、わりとおなじみのタイトルが並んでいるが、既報のとおり断トツの作品はないようだ。じっさいフタがあいても、どれを注文したらいいか混戦になりそうですな。
それにしても、こんなに多くのファンが投票に参加するとは、しかもそれが毎年恒例のことだけに、驚きだ。ほかの国では、純文学はおろかエンタメの分野でも考えられない現象だろう。これも Dickens をはじめ十九世紀、いや十八世紀からはじまる長い文芸小説の伝統のたまものではないか。
その Dickens だが、リチャード・ガーティス監督の『アバウト・タイム』でたしかビル・ナイが、「Dickens は一生に一度しか読めない」というせりふを口にしていたと記憶する。もしかしたら、「Dickens の本はどれも」だったかもしれない。
どちらが正しいかは未確認だけど、とにかく "Bleak House" を二度読む気がしないことだけはたしかだ。理由はいくつかあるが、なにより、再読でもえらく時間がかかりそうだ。
それに、どうせ超大作の古典を読みかえすなら Dostoevsky や Tolstoy、Melville のほうがいい。いくら長くても、注目すべき点は決まっている。ところが Dickens となると、いやはや、どこもかしこも「饒舌につぐ饒舌」、「脱線につぐ脱線」。このハードルをふたたび乗りこえて大団円に達するのは、想像するだけで疲れる。たった一冊の原書体験ながら、「一生に一度しか読めない」というのはホントですな。
そんなデカ本をなんとか攻略できたのは、ひとつには、注をほとんど無視したから。最初はまめに巻末の説明を読んでいたのだけど、そのうち、それがどうもピンとこなかったり、さほど意味があるとは思えなかったり。たいてい時間を食うだけなので、本文の解読に困らないかぎり読み飛ばすことにした。
現代英語ではあまり目にしない難解な単語も同様で、おおよその意味を推測して切りぬけ、それが無理でも文脈が通じるようならOK。どうしても気になるときだけネットで検索した。それでもラチがあかないことがあり、最後はあきらめた。翻訳者の苦労がしのばれます。
ほかに語学的なハードルとしては、ワンセンテンスがやたら長く、構文も複雑なことが多い。しかしこれはまあ、ヴィクトリア朝時代の装飾的な文体なので、ガマンしてつきあうしかないですな。ただ、主人公 Esther が語り手のときは意外に簡単、ひと息つけます。
それから時間配分も要注意。こればっかり読んでいると文字どおり日が暮れてしまい、ほかになにもできない。一日何ページとノルマを決め、切りのいいところまで進みそうなときだけ延長するのがオススメ。
要は Slow and steady wins the race. ですな。本書にかぎらないが、メモを取り、あれこれ分析しながら読んでいると、最初は気づかなくても、ああなるほど、とあとで思い当たることがある。とりわけ、こういう古典ほどゆっくり読んだほうがいい。未読だが、齋藤孝の『「遅読」のすすめ』にもそんな話が載っているかもしれませんな。(つづく)
