ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Alice Walker の “The Color Purple”(1)

 先日、1983年のピューリツァー賞受賞作、Alice Walker の "The Color Purple"(1982)を読了。Alice Walker(1944 - )は黒人の女性作家として初めて小説で同賞を獲得。
 本書が呼んだ社会的反響は大きく、1985年、スティーヴン・スピルバーグ監督によって映画化され、アカデミー賞10部門にノミネート。もし監督が黒人だったら大量受賞したのではといわれたが無冠におわっている。日本でも翌年『カラーパープル』との邦題で公開。また2023年には、ブリッツ・バザウーレ監督によりミュージカル映画としてリメイクされ、翌年、日本でも同名タイトルで公開されている。
 諸般の事情でなかなかレビューが書けなかった。なんとかでっち上げてみよう。

The Color Purple

The Color Purple

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[☆☆☆☆] 二十世紀前半、黒人女性セリーが生まれ育ったのはアメリカ南部ジョージア州の田舎町。とくればテーマは人種差別で、黒人被害者即善人、白人加害者即悪人という図式が思いうかぶ。が、ここではその図式は物語の一部にすぎない。過半は黒人自身の問題である。女性蔑視、家庭内性暴力、暴行、セックスだけの結婚。こうした性差別が黒人社会の負の要素として描かれる一方、当初は悪弊に黙従するも、やがて果敢に抵抗するセリーや、セリーの友人で自由奔放、愛に生きる歌手シャグなど、黒人女性たちの悩み多き、しかし前むきな人生も活写される。要は悲喜こもごも、黒人も白人同様、善悪ないまぜの独立した存在として生きている。すなわち黒人は、政治的のみならず人格的にも自由で白人と平等なのである。とりわけ「善悪ないまぜ」という点に意味のある「平等宣言」。それが本書の画期的な作品たるゆえんだ。この主筋を支えるセリーの成長ぶりは感動的である。惜しむらくは副筋のトピックスが盛りだくさんで、焦点がぼやけ気味。アフリカに渡ったセリーの妹、宣教師のネッティが、同じ黒人である現地住民との交流でカルチャーショックをうける。これ一本にしぼったほうが、人間の理解と無理解という点で主筋との整合性があったのでは。また、終幕の展開が一族再会のための布石とはいえ、ややもたついて退屈。などと瑕瑾は目につくものの、文学史にのこる秀作である。