先日、今年のブッカー賞一次候補作、Benjamin Wood の "Seascraper"(2025)を読了。Benjamin Wood(1981 - )はイギリスの作家で、2012年のコスタ賞新人賞部門最終候補作 "The Bellwether Revivals"(未読)でデビュー。表題作は第5作である。諸般の事情でレビューをでっち上げるのが遅れてしまった。さて、どうなりますか。
[☆☆☆★★] 一読、爽やかな気分になる青春小説だ。しかも、おなじみの通過儀礼に「ウソから出たまこと」という新工夫があり、読ませる。イギリスの海辺の小さな町。二十歳の青年トマス・フレットは口うるさい母とふたり暮らし。毎日、遠浅の海に出ては、祖父から習った伝統的な漁法でエビ漁にいそしんでいる。そこへアメリカの映画監督エドガー・アチスンが現れ、荒涼とした海がロケ地としてふさわしく、トマスの案内で下見をしたいという。そこで霧ふかい夕刻、干潮時にふたりは海に出かけるのだが……。引っ込み思案のトマスがフシギな冒険をへて世界をひろげ、生きがいを見いだすプロセスは水墨画のような夢物語。冒頭、トマスが海岸でひろったナゾの曳光弾の扱いも秀逸で、心にのこる佳篇である。見上げれば闇夜に光る希望かな。
