ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Maria Reva の “Endling”(2)

 先週、愛媛の田舎、宇和島に帰省したとき、観光名所にもなっている海辺の段々畑のほかに、もう一ヵ所、ぼくがひそかに「宇和島ヴェニス」と呼んでいる目的地を訪ねることができた。小日提(こひさげ)という集落だ。

 この景色をはじめて目にしたときは、「なんじゃ、こりゃ!」とビックリしたものだ。嵐の日など、すぐにも大波に呑まれてしまいそうではないか。が友人の話では、さいわい内海に面しているので、そこまで被害に遭ったことはないとのことだった。
 市内からバスで約1時間。地図で見ると文字どおり bottleneck に位置している。だから海に浮かぶ集落のように見えるわけだ。すごいところがあるものですな。

 さて表題作。あえて不謹慎ないいかたをすると、やっと出たウクライナものである。というのも2022年ブッカー賞の総括記事でぼくはこんなことを書いた。「("The Colony" も "Small Things Like These" も)北アイルランド紛争が激しかった時代の物語だが、両書とも、ロシアによるウクライナ侵攻という未曾有の事態にもじゅうぶん当てはまる問題を内包している。しかも、よく書けている。『感服した』(Colony)、『泣けた』(Small Things)というのは正直な感想です。
 さて今年の候補作はどれも、昨年、もしくはそれ以前から構想が練られていたはずだ。それゆえ、昨今の国際情勢について大なり小なり考えるヒントが得られる点はあっても、それに即応して書かれたものでないことは明らかだ。しかしながら、(中略)来年はおそらく文学の世界でもウクライナ問題が扱われるのではないか。それがどんなかたちで現れるのか見守りたいところだ」。

 その一年後の記事では、「ぼくは去年、『来年はおそらく文学の世界でもウクライナ問題が扱われるのではないか』と予想した。この予想は、"Prophet Song" の設定が侵攻開始後のロシアの国内情勢に酷似しているという点で、半分ほど当たったといえるかも。しかし現象論にすぎず、上のとおり、ぼくはあまり感心しなかった」。

 さらに一年後。「世界では今年も大事件が起こり、相変わらず流血の惨事が絶えない。Orbital の一節のように、Humankind is a band of sailors, ... a brotherhood of sailors out on the oceans. Humankind is not this nation or that, it is all together, always together come what may.(p.134)などと、そらぞらしい理想論、平和論を唱えている場合じゃないだろう」。

 こうした経緯から、少なくともブッカー賞関連ではぼくの知るかぎり、"Endling" は「やっと出たウクライナもの」ということになる。しかも Wiki によると、作者 Maria Reva は Born in Ukraine, Reva moved to Canada with her family in childhood, and grew up in Vancouver, British Columbia. やっぱりウクライナ系作家の作品を待つしかなかったのだろう。
 かくしてその出来は? 残念ながら、"The Colony" のように感服したわけでも、"Small Things Like These" のように泣けるわけでもなかった。まことに中途半端ですが、きょうはここでおしまい。つづく。