ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Kiran Desai の “The Loneliness of Sonia and Sunny”(1)

 大興奮のワールドシリーズがおわり、いまだ余韻にひたったまま、今年のブッカー賞最終候補作、Kiran Desai の "The Loneliness of Sonia and Sunny"(2025)をなんとか読了。Kiran Desai(1971 - )はインド人作家で、前作 "The Inheritance of Loss"(2006 ☆☆☆☆★)は、2006年のブッカー賞と全米批評家協会賞を受賞。ほぼ20年後に刊行された新作でブッカー賞二度目の受賞なるか注目されている。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★★★] 副題をつけるなら「現代インド人百科全書」。第二次大戦にはじまり、インド・パキスタンの分離独立を経て、9.11アメリ同時多発テロへといたる現代史の激流のなか、デリー、ゴア、ニューヨーク、ヴェニス、メキシコの小村と舞台も移動しながら、青年ソニアとサニーの出会いと別れ、再会を通じて、インドの伝統と文化、宗教、風習など、およそありとあらゆるインド人の生活の諸要素とその現状・変容が逐一報告される。重厚にして緻密、長大にして微細。「インド人もびっくり」しそうなインド料理のフルコースだ。メインディッシュは若いふたり双方の家族愛と、そしてもちろん彼ら自身の恋愛だが、どちらも確たるテーマではない。雑誌記者でもあるソニアのことばを借りれば、作者はむしろ、「あらゆるものを一冊の本にまとめ」、「知りえたあらゆる愛の物語を書きしるし」、「綴ったものの真実が明らかになるまでたくさんの物語を書きつづけ」、「その中心におく基軸」を模索する「長い旅」に出ているのではないか。その旅はおそらく、同じく記者のサニーが述懐しているとおり、アメリカに渡ったインド人が「インドにもアメリカにも属さず、中間地点で立ち往生している」証左でもあろう。ソニアはサニーの母と会話するうち、この世で「解決すべき唯一の問題は孤独である」と思い知る。そして孤独とは、愛と存在にかかわるもの、と作者はいいたげである。ソニアとサニーの長い旅は、孤独にさいなまれながら愛を求め、アイデンティティを確立しようとする旅だったのだ。おわってみれば意外に平凡な道ゆきだが、それにしても「インド人もびっくり」の大力作である。