ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Andrew Miller の “The Land in Winter”(1)

 退院後4日目。今年のブッカー賞最終候補作、Andrew Miller の "The Land in Winter"(2024)をやっと読みおえた。Andrew Miller(1961 - )は本書の舞台のひとつ、ブリストル生まれのイギリス人作家で、ブッカー賞のショートリストにノミネートされたのは、第3作 "Oxygen"(2001未読)以来2回目。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★] 1960年代の初め、雪に閉ざされたイギリス西部ブリストル近郊の村。精神病院の患者の自殺で幕をあけ、暗い冬のミステリアスな雰囲気に惹かれるが、事件そのものは本篇とはほとんど無関係。病院から連絡をうけた地元の医師エリックと、身重の妻アイリーン、その隣人で農場主のビルと、やはり身重の妻リタの四人が交代で主役をつとめ、それぞれ直面した心の危機について赤裸々に告白する。つらい記憶、肉親との確執、妊婦としての不安や焦り、経営上の悩み、不倫、結婚生活の破綻。彼らが目にする光景はどれも心象風景に近く、さりげない詩的な描写にしみじみとした味わいがある。四人の思いが最後、ひとつに収斂する展開もみごと。が、それだけだ。プロローグから終幕まで、静かな冬の村の人びとでも、心のなかは時に嵐が吹き荒れている、という当たり前の話がムードたっぷりに綴られるだけ。第二次大戦の爪痕や、ナチス強制収容所への言及にしても添えものにすぎず、掘りが浅い。一事が万事、皮相な「雰囲気小説」である。