ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2025年ブッカー賞ぼくのランキング

 きのう Flashlight を読みおえ、今年もやっとブッカー賞レースの最終出走馬を総括する運びとなった。(未読の The Rest of Our Lives はパス)。
 まず、現地ファンによる発表直前のランキングはこうだった。

  1, The Land in Winter by Andrew Miller(or 2)
  2, The Loneliness of Sonia and Sunny by Kiran Desai(or 1 or 3)
  3, Audition by Katie Kitamura(or 2)
  4, Flashlight by Susan Choi
  5, Flesh by David Szalay
  6, The Rest of Our Lives by Ben Markovits

 つまり Flesh の受賞は番狂わせだったわけで、ぼくも驚いた。てっきり Kiran Desai が栄冠に輝くものと思っていたからだ。また、現地ファンの評価が高かった Endling がショートリストにのこらなかったのも意外。
 こうした点を踏まえ、ちょっと変則的だが、ぼくのランキングはつぎのとおり。

1. The Loneliness of Sonia and Sunny(☆☆☆★★★)

2. Flashlight(☆☆☆★★★)

3. Endling(☆☆☆★★)

4. Audition(☆☆☆★)

5. The Land in Winter(☆☆☆★)

6. Flesh(☆☆☆★)

(未読につき番外)

 飛びぬけた傑作こそなかったものの、今年は上位陣ががんばったおかげで、ひさしぶりに低調から脱したようだ。が、三冊とも好調の証しといえるほどの出来ではなく、おまけに持ち運びに不便なデカ本。読みごたえがありすぎてヘコたれた。
 順不同だが、まっ先にふりかえるべきは Endling だろう。ロシアによる侵攻開始以来、三年めにしてやっと出たウクライナ戦争関連の小説だからだ。しかも作者はウクライナ系。おそらく満を持しての刊行だったはずだ。
 が、「当初の構想が『引き裂かれ』、『急激に変化する状況を反映』」せざるをえなかったせいか、ヒネりにヒネったメタフィクションとなり、技巧的には高く評価できても、「まとまりに欠け、小説作品としては、すっきりしない」。戦争の根本問題についての深掘りがない点も気になった。
 Flashlight も「満を持しての刊行」だったかもしれない。作者は韓国系。「英米文学史上、日韓の拉致問題を本格的に扱ったはじめての作品ではなかろうか」。在日朝鮮人の目から見た、太平洋戦争中および戦後の日本の生活風景がじつにリアル。途中までよく出来た家庭小説・青春小説だったが、拉致問題へと発展する過程が長すぎて退屈。北朝鮮が舞台の小説としては、Adam Johnson の The Orphan Master's Son(2012 ☆☆☆☆)のほうがずっと面白い。
 The Loneliness of Sonia and Sunny は、前作 The Inheritance of Loss(2006 ☆☆☆☆★)よりかなり落ちる。テーマも現代人の愛と孤独、アイデンティティとあって平凡。しかしなにしろ「インド人もびっくり」の大力作だ。ひとつひとつのエピソードはそれなりに読ませ、Dickens を思わせる構成だ。どうせなら物語性のほうも大家から学んでほしかった。
 芸術性という点で Endling が東の横綱とすれば、西は Audition。超絶技巧を駆使して人間の二重性を描いた高踏派、玄人好みの作品で、なにより簡潔なのがいい。だが古いテーマでそんなに凝る必要があったのか。とはいえそのあたり、テーマに窮した現代作家共通の悩みかもしれませんな。
 読み物としては The Land in Winter がいちばん面白かった。といっても、よかったのは冒頭のミステリアスな雰囲気だけ。あとは「さりげない詩的描写」で持った「雰囲気小説」。Andrew Miller は Pure(2011 ☆☆☆★)もそうだったが、人間の内面を深く掘り下げるタイプの作家ではない。
 かんじんの受賞作 Flesh については、どうしてこんな作品が選ばれたのか、のひと言に尽きる。濡れ場にはソソられたけど、それもエロおやじだからこそ。女性読者に受けるとはとても思えない。どうでしょうか。
 去年もおととしも、締めのことばは「いでよ、21世紀の George Orwell! 知的に誠実な思索を深め、それを言語芸術としてみごとに表現する作家はどこかにいないものか」。
 来年いや再来年は巷間、世界情勢が激変するかもしれないといわれている。コジつければ超カオス状態を先取りしたともいえそうなのは Endling だが、鋭い知性という点では Susan Choi にスゴさを感じた。5,6年に一冊のペースの作家なので、ないものねだりだけど、彼女にこそメタフィクションあたりでカオスを物語性豊かに描きつつ、人間の本質に迫った作品を書いてほしいものだ。あ、いや、べつに Choi 女史でなくてもいいのだけど。