ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Shirley Hazzard の “The Great Fire”(1)

 ゆうべ、2003年の全米図書賞受賞作、Shirley Hazzard の "The Great Fire"(2003)を読了。Shirley Hazzard(1931 - 2016)はオーストラリア出身で1951年にアメリカへ移住。それまでニュージーランドや香港にも滞在経験があり、本書には当時の体験が大なり小なり反映されているものと思われる。さっそくレビューを書いておこう。

[☆☆☆★] 戦争に悲恋はつきもので、小説の最たる例は『武器よさらば』。映画となると『慕情』『離愁』など枚挙にいとまがない。「大火」、すなわち悲惨な戦争体験を踏まえた本書も終幕寸前までその王道に準じたもの、と思わせるが、じつは、というどんでん返しが秀逸。1947年、英軍少佐アルドレッド・リースは、旧海軍兵学校のあった江田島に赴任し、豪軍准将の娘ヘレン・ドリスコルと出会い恋に落ちる。この出会いから恋愛までのいきさつを描いた前半はかなり退屈だ。広島の爆心地視察や、第二次大戦前夜の恋の遍歴、離婚の思い出など、アルドレッドにかかわるエピソードは興味ぶかいものの、彼の友人に視点を移した香港篇は、主筋の山場がいきなり訪れるのを遅らせる意味しかない。ともあれアルドレッドとヘレンの思いがひとつになったとき、定石どおり障害が立ちはだかる。まず、ヘレンはまだ十代で、アルドレッドの年齢の半分も年下。つぎに、ヘレンには難病を患った兄がいて、ヘレンは献身的に看病している。そしてきわめつけは「超遠距離恋愛」とヘレンの両親の猛反対。アルドレッドは父が急逝してイギリスに帰国し、ヘレンは兄の病状悪化で母の祖国ニュージーランドへ。地球の反対側にいるふたりの恋の顛末はいかに、という後半は冗長のようでサスペンスがあり、読ませる。「大火」で心の傷を負った人間の再生と恋愛というテーマは平凡だが、上のどんでん返しが印象的な佳篇である。