昨年の全米図書賞受賞作、Rabih Alameddine の "The True True Story of Raja the Gullible (and His Mother)"(2025)を読了。Rabih Alameddine(1959 - )はレバノンの作家で、サンフランシスコおよびベイルート在住。さっそくレビューを書いておこう。(追記:本稿は過去記事「ゲイ小説名作選」に転載しました)
[☆☆☆☆] ゲイ文学の成熟を思わせる秀作である。従来、このジャンルでは多くの場合、「耽美的で隠微な禁断の世界」「純粋で強烈な愛情」「苦悩と絶望」あたりがキーワード。数少ない例外のひとつはユーモア小説の佳篇、アンドリュー・ショーン・グリーアの『レス』だったが、同書でもゲイは笑いの対象ではなかった。ところが本書では、ゲイは笑いのネタ、それも健康的で日常茶飯の題材となっている。その最たる例がレバノンの初老の男「カモのラジャ」と高齢の母ザルファのすさまじい毒舌合戦で、ふたりはことあるごとにイガみあい、罵りあい、そして心の底では愛しあっている。母は息子がゲイであることを百も承知。しかもそれは掛けあい漫才のネタのひとつにすぎず、親子が演じるコミカルなドタバタ劇の一環である。つまりゲイは日常生活に自然に溶けこんでいるのだ。けれどもゲイの市民権は一朝一夕に得られたものではない。そこには偏見と迫害の歴史が、と綴るのがいままでの定石で、本書もむろんそれを踏みつつ、ラジャの自分史、さらには激動のレバノン現代史と重ねあわせている点が秀逸。内戦、シリアやイスラエルによる侵攻、空爆、ベイルート港爆発事故、そしてコロナ禍。こうしたマクロの背景とミクロの笑いのからみは比類がない。結びのことば、「くたばれ、かあさん」には大笑いしてしまった。おみごと!
