シンプル・イズ・ベスト。ここではすべての流れが、Endurance was strength. The courage of the lost swelled and moved, a force separating the days, clearing the way.(p.276)という結びのことばにむかって収斂していく。
その流れも煎じつめると、ふたつほどしかない。旧作 "Lark and Termite"(2009 ☆☆☆★★)同様、男女の愛と家族愛。要はそういうことだ。
がもちろん、単純な構造が浮かびあがってくるまでには、ある一定の時間がかかる。しかも当初は謎だらけだ。I got up in the wagon and Papa set me beside Mama, all of us on the buckboard seat.(p.3)And don't call her Mama, he said. ... / You know what to call her, he said. Don't fail in't. / You said call her Miss Janet. Though it is not her name./ It is her name now.(p.4)
うん? いったいどんな家族なんだろう。
I turned to see where she would go. ... The sign was written in brass script: Trans-Allegheny Lunatic Asylum. ... / She's not a lunatic, I said.(p.15)... you'll stay with her./ Here?/ This is home. ... / Then listen, he said. I am not your Papa, nor have I ever been. ... / So don't be looking for me, ... / I rode you here. It was on my way. Tell me so./ You rode us here, I said. It was on your way.(p.16)You'll tell the story. The wagon was moving off and his words drifted back with the dust.(p.17)
虫食いのようにひろっただけでも謎は深まるばかり。
そこへ現れたのがタイトルの人物だ。I'll call the Matron. The cooks are not in yet, but I've some victuals set out. I'm O'Shea, the Night Watch.(p.21)
ははあ、この O'Shea が主人公なのか。だったら舞台もこの病院で、彼が夜勤のさい上のフシギな家族と接するうち、しだいに秘密のヴェールがはがされていく。
と思いきや、次章で話は十年前、南北戦争の時代にさかのぼり、舞台ももっぱら森のなか。He and Eliza made no children in their refuge, those short years before the War. ... It seemed a trick of fate when she got with child just as War broke out.(p.46)
ふたつの物語は当然、いずれどこかで結びつくと思われ、事実そうなる。とネタを割っても割りすぎではないだろう。ミエミエだからだ。
ゆえに「単純な構造」といえるのだけど、当事者自身、つまり冒頭の I, Mama, Papa、ついで O'Shea、それから He と Eliza たちにはむろん先の展開が読めない。しかもその Papa と O'Shea, He がじつは……おっと、それはヒミツ。
ともあれ、蠱惑的な謎に魅せられた読者が作中人物よりも先に(勘ちがいの可能性はあるにしても)謎を解き、彼らの運命を知り、その運命の先にハッピー・エンディングがあることを願う。そう願った瞬間、読者はすっかり物語のとりこになっている。
伝統的でオーソドックスな手法ではあるが、男女の愛や家族愛を描くにはうってつけだ。少なくとも、凝った語り口や退屈な瞑想にさんざんつきあわされたあげく、え、「要はそういうことだ」ったの、と拍子ぬけするより、はるかにマシである。(つづく)
(下の写真 (2015年撮影) は、愛媛県愛南町の紫電改展示館に展示されていた紫電改。昨年7月のNHKニュースによると、「空中戦の末、愛南町の沖合に沈んだ機体は昭和54年(1979年)7月に引き揚げられ」、「国内に現存する唯一の機体として展示されてき」たが、展示館の老朽化が進んだため、まず機体を補修したのち、令和8年度中に完成予定の新しい施設で公開されるという)