ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2022-01-01から1年間の記事一覧

2022年ぼくのベスト小説

前回の記事をアップしたあと最寄り駅近くのジムに出かけたら、玄関先に大きな門松が飾ってあった。とうに古稀をすぎたぼくには、門松や冥途の旅の一里塚というわけだが、きょうは大みそか。大みそか冥途の旅の道連れ本となるかどうかはさておき、毎年恒例の…

Nikos Kazantzakis の “Zorba the Greek”(1)

数日前、ギリシャの作家 Nikos Kazantzakis(1883 – 1957) の "Zorba the Greek"(1946, 英訳1952)をやっと読了。が、家内外の清掃その他、なにかと雑用に追われ、レビューをでっち上げる時間がなかなか取れなかった。 本書はギリシャの映画監督マイケル・…

Helga Ruebsamen の “The Song and the Truth”(2)と、ヴェトナム戦争小説選

寝しなに読んでいる『ライオンのおやつ』がとてもいい。エピソード単位で途切れ途切れに進んでいるのだけど、いまのところ毎晩、しあわせな気分で眠りに落ちることができる。 それが就眠儀式としての読書のポイントで、デスク橫の〈気になる積ん読本〉コーナ…

Isabel Allende の “The House of the Spirits”(3)

ようやく体調がもどってきた。昔から風邪は長引くほうなのだけど、コロナかコロナでないのか、こんどの風邪もなかなか治らなかった。のどの痛みにはじまり、粘液状の鼻水が止まらず、軽い熱もずっと持続。ぼくは平熱が低いので、ちょっと熱が出ただけですぐ…

Isabel Allende の “The House of the Spirits”(2)

先週末から今週頭まで、所用で愛媛の田舎に帰省していた。紅葉狩りも期待していたのだけど、うっかりデジカメを忘れてしまい、使い馴れていないケータイでなんとか撮影。(写真は宇和島市和霊公園) と、そこまではよかったのだが、帰宅して二日後、のどに違…

Helga Ruebsamen の “The Song and the Truth”(1)

オランダの作家 Helga Ruebsamen(1934 – 2016)の "The Song and the Truth"(1997, 英訳2000)を読了。Ruebsamen はジャカルタで生まれ、ジャワ島で幼児期を過ごしたのち、1939年、家族とともにオランダへ移住。この経歴からして本書は、彼女の実体験をフ…

Tess Gunty の “The Rabbit Hutch”(2)

少しのことにも、先達はあらまほしき事なり。今年の全米図書賞の発表前、ひさしぶりに最終候補作をあらかじめ読んでおこうと、The Mookse and the Gripes の関連スレッドをながめていたら、表題作を高く買っているコメントが目にとまった。当たるも八卦当た…

2022年全米図書賞発表

本日、全米図書賞の発表があり、小説部門で Tess Gunty の "The Rabbit Hutch"(2022)が栄冠に輝いた。あちらのファンの情報をもとに、たった1冊だけ読んでいた最終候補作が受賞とあって、なんだか、ひとのフンドシで相撲を取ったような気分だけど、とりあ…

Isabel Allende の “The House of the Spirits”(1)

きのう、チリの著名な作家 Isabel Allende(1942 – )の処女作 "The House of the Spirits"(1982, 英訳1985)を読了。途中、諸般の事情で長らく中断していたので、じゅうぶんに理解できたかどうか怪しいものだが、なんとかレビューをでっち上げてみよう。 […

NoViolet Bulawayo  の “Glory”(4)

案の定、5回目のコロナワクチン接種の副反応がひどかった。当日の夕刻から、さむけと疼痛がはじまり、夜中の2時には8度6分の発熱。平熱に戻ったのは接種後3日目のきのうだった。いまもまだ、ちょっとボンヤリしている。なにも読む気がしないので、リハ…

NoViolet Bulawayo の “Glory”(3)

ほぼ1ヵ月ぶりに Isabel Allende の "The House of the Spirits"(1982)を読んでいる。メモを見て粗筋や人物関係を思い出すのに手間どったけど、やっとまた作品の世界になじんできたところ。 しかし明日は、5回目のコロナワクチン接種を受ける予定。こん…

Tess Gunty の “The Rabbit Hutch”(1)

今年の全米図書賞最終候補作、Tess Gunty の "The Rabbit Hutch"(2022)を読了。Tess Gunty はロス在住の新人女流作家で、デビュー作の本書は今年創設された Waterstones Debut Fiction Prize を受賞。さっそくレビューを書いておこう。 [☆☆☆★★] インディア…

NoViolet Bulawayo の “Glory”(2)

この作家、初耳かと思ったら、過去記事を検索したところ、2013年のブッカー賞最終候補作 "We Need New Names"(2013 ☆☆☆★★)の作者だった。 拙文を読んで、なんとなく思い出した。いい作品だった。これは Bulawayo(1981– )のデビュー作で、彼女はジンバブ…

Shehan Karunatilaka の “The Seven Moons of Maali Almeida”(5)

表題作と "Treacle Walker" の比較をつづけよう。前回(4)では、そこにカオスがあるだけという小説よりも、カオスをなんとか収拾しようとする動きのあるほうを高く評価すべきだと述べた。 収拾だけでなく、カオスからの脱出の試みもあればさらにいい。煩悶…

Shehan Karunatilaka の “The Seven Moons of Maali Almeida”(4)

いつかも紹介した話だが、今年のブッカー賞のロングリストが発表される前、現地ファンのあいだでは、ディストピアを扱った候補作がどれくらい選ばれるだろうか、ということも話題のひとつになっていた。おそらく、ロシアによるウクライナ侵攻が背景にあった…

Shehan Karunatilaka の “The Seven Moons of Maali Almeida”(3)

この一週間、活字からほとんど離れていた。寝しなに『かがみの孤城』を読んでいたくらい。(一ヵ月以上もかかって、やっと文庫本上巻の半分まで到達。これから面白くなるのかもしれないけれど、相変わらず、つまらない)。 ひと息いれたわけは、ブッカー賞の…

2022年ブッカー賞発表とぼくのランキング

今年のブッカー賞は、スリランカの作家 Shehan Karunatilaka の "The Seven Moons of Maali Almeida"(2022)が受賞。本来なら「受賞!」と書くところだが、ふたつの理由で感嘆符はカットした。 まず、前回の記事で発表した予想どおりだったこと。予想の根拠…

NoViolet Bulawayo の “Glory”(1)と、今年のブッカー賞予想

今年のブッカー賞最終候補作、NoViolet Bulawayo の "Glory"(2022)を読了。Bulawayo(1981– )はジンバブエの作家で、本書は彼女の第2作。デビュー作 "We Need New Names"(2013 ☆☆☆★★)も刊行年にブッカー賞最終候補作に選ばれている。さっそくレビュー…

Shehan Karunatilaka の “The Seven Moons of Maali Almeida”(2)

Shehan Karunatilaka? 聞いたことのない作家だなと思いながら Wiki をチラ見。一瞬おいて、あ、と叫んだ。なんだ、"Chinaman"(2011)の作者だったのか。同書なら、いまはなき英連邦作品賞(Commonwealth Book Prize)の2012年受賞作ということで、デスク横…

Elizabeth Strout の “Oh William!”(2)と既読作品一覧

novel を「小説」と訳したのは坪内逍遥らしいが、"Moby-Dick" や "War and Peace" など質量ともに雄大な novel を小説と呼ぶのは、よく考えると、おかしい。さりとて、いまやほかに呼びようもなく、習慣的にそう分類している。 一方、なるほど「小説」とは言…

Shehan Karunatilaka の “The Seven Moons of Maali Almeida”(1)

今年のブッカー賞最終候補作、Shehan Karunatilaka の "The Seven Moons of Maali Almeida" (2022)を読了。Karunatilaka(1975– )はスリランカの作家で、2012年の Commonwealth Book Prize 受賞作 "Chinaman"(2011)でデビュー(未読)。ハードカバー裏…

Percival Everett の “The Trees”(2)

いま現地ファンの下馬評をチェックすると、今年のブッカー賞レースで先頭争いを演じているのは相変わらず、表題作と "Small Things Like These"(☆☆☆★★★)、"The Seven Moons of Maali Almeida"。3番めはまだ読んでいる途中だが優勝をうかがう勢いだ。なか…

Alan Garner の “Treacle Walker”(3)

おとといレビューをアップした "Oh William!" で、今年のブッカー賞最終候補作を読んだのは4冊め。そこで暫定ランキングもつぎのように変更した。1.2. Small Things Like These(☆☆☆★★★)3. The Trees(☆☆☆★)4. 5. Treacle Walker(☆☆☆★)6. Oh William!(…

Elizabeth Strout の “Oh William!”(1)

二兎を追う者は一兎をも得ず。2冊同時に読んでいると、わかりきった話だが、どちらもふだん以上にスローペース。それでもなんとか、きのう今年のブッカー賞最終候補作、Elizabeth Strout の "Oh William!" のほうをまず読みおえた。女流作家 Lucy Barton シ…

Alan Garner の “Treacle Walker”(2)

Isabel Allende の "The House of the Spirits" をボチボチ読んでいたら、Elizabeth Strout の "Oh William!" が到着予定日よりずっと早く届いてしまった。試読したところ、どうもイマイチ。Allende のほうは相変わらずおもしろい。印象が希薄になるのがいや…

Robert Walser の “Jakob von Gunten”(2)

スイスの作家 Robert Walser(1878 – 1956)のことは、レビューのイントロにも書いたとおり、もう10年ほど前だったか、いまは亡き優秀な英文学徒T君に教えてもらった。「Walser はいいですよ」という彼のことばは、いまだにはっきり耳にのこっている。 どこ…

Claire Keegan の “Small Things Like These”(2)

このところ、ペルーの著名な作家 Isabel Allende の "The House of the Spirits"(1982, 英訳1985)をボチボチ読んでいる。未読の今年のブッカー賞候補作を入手するまでの場つなぎに(途中で乗り換える可能性あり)、と思って取りかかった。 開幕から物語性…

Tayeb Salih の “Season of Migration to the North”(3)

まったりペースながら海外の小説を読んでいると、おそらく日本の現代文学ではさほど扱われていないのではと思えるような問題について考えさせられ、しかもそれぞれの問題に関連性のあることが、たまにある。coincidence の妙というべきか。 不可解なことにブ…

Tayeb Salih の “Season of Migration to the North”(2)

これは名作巡礼の一環で取りかかった。Tayeb Salih(1929 – 2009)がスーダンの作家で、本書(1966, 英訳1969)が In 2001 it was selected by a panel of Arab writers and critics as the most important Arab novel of the twentieth century. と知ったの…

Joshua Cohen の “The Netanyahus”(2)

なんでやねん! "The Colony" がブッカー賞ショートリスト落選とは! 下馬評ではロングリストの発表前から1番人気だっただけに、ぼく同様、この結果にびっくりした現地ファンも多かったようだ。いったい、なにが起きたのだろうか。 とそう疑いたくなるのは…