ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2008-11-01から1ヶ月間の記事一覧

Elfriede Jelinek の "Women as Lovers"

『ピアニスト』に続いて、3年前の2月ごろだったか、ぼくとしては洋書のレビュー第2弾を書き、アマゾンに投稿(その後削除)したのが、同じくイェリネクの "Women as Lovers" についてだった。Women As Lovers (Masks)作者: Elfriede Jelinek,Martin Chalm…

Elfriede Jelinek の "The Piano Teacher"

もっか多忙をきわめているので、例によって昔のレビューでごまかそう。ご存じ04年のノーベル賞作家、イェリネクの『ピアニスト』だ。The Piano Teacher (Serpent's Tail Classics)作者: Elfriede Jelinek,Joachim Neugroschel出版社/メーカー: Serpents Tail…

Patrick Gale の中間報告

今日もアマゾンUKでベストセラーになっている(fiction 部門64位) Patrick Gale の "Notes from an Exhibition" をぼちぼち読んでいるのだが、ボケ+風邪+多忙の三重苦のため、まだしばらく時間がかかりそうだ。少し前、「今のところ、かなり気に入ってい…

"Moby-Dick" と「闇の力」(14)

白鯨を根元的な悪の存在と見なすエイハブは、悪の根絶、言い換えれば、この世に絶対的な正義を樹立しようというヴィジョンに憑かれている。さような理想主義的ヴィジョンはたしかに美しい。しかし一方、それは必然的に流血の惨をもたらすがゆえに恐ろしい。…

ベスト10の季節

いよいよベスト10の季節がやって来た。まず最初、11月3日に "Publishers Weekly" が Best Books of the Year を発表。http://www.publishersweekly.com/article/CA6610357.html 例によって10冊以上の優秀作がずらっと並んでいる。このうち、ぼくが読んだこ…

Siri Hustvedt の "What I Loved"

年末が近づいてきた。ぼくは何しろ宮仕えの身なので大忙し。連休中も「自宅残業」の毎日だった。おかげで、せっかく読みだした Patrick Gale の "Notes from an Exhibition" も思うように進まない。 が、その割に今のところ、かなり気に入っている。故植草甚…

"Moby-Dick" と「闇の力」(13)

エイハブのように、たとえ本人は絶対的な正義を追求しているつもりでも、それはこの世では相対的な正義に変質せざるをえない。それが現実だ。万人にとってひとつの神の正義が確立されたためしはないからだ。そしてその変質の過程で、絶対的な正義は絶対的に…

Tatiana de Rosnay の "Sarah's Key"(結び)

前にも書いたように、ぼくは恥ずかしながら『アンネの日記』も『シンドラーのリスト』も未読。ナチス物といえば、その昔、『オデッサ・ファイル』のような娯楽小説のほうをたくさん読んだものだ。それゆえ、シリアスな系統はあまり詳しくないのだが、今まで…

Tatiana de Rosnay の "Sarah's Key"(4)

たしかに過去のナチス物、 ホロコースト物と較べて、「感動の大きさという点では、本書も遜色はない」。だが、ここでその「感動」の本質について考えてみたい。 この本を読んでいていくつか胸を打たれた箇所がある。まず、幼い娘がユダヤ人狩りに遭い、やむ…

Tatiana de Rosnay の "Sarah's Key"(3) 

この本には、ほかにもまだ小説としてよく工夫されている点がある。たとえば、60年前の少女の物語と現代の物語とで、はっきり文体を使い分けていることだ。一見無関係なふたつのストーリーが並行して進み、やがてひとつに交わるというのは定石だが、少女のほ…

2008年全米図書賞発表

日本時間で本日正午から National Book Awards(全米図書賞)の発表が始まった。最初は Young People's Literature 部門で Judy Blundell の "What I Saw and How I Lied" が受賞。What I Saw And How I Lied作者: Judy Blundell出版社/メーカー: Scholastic…

Tatiana de Rosnay の "Sarah's Key"(2) 

ホロコースト物を読むのは John Blum の "Those Who Save Us" 以来で、あれもやはりニューヨーク・タイムズのベストセラー・リストで知った本だった。http://d.hatena.ne.jp/sakihidemi/20080517 ぼくはそのとき、次のように書いている。 生理的な不快感は別…

Tatiana de Rosnay の "Sarah's Key"(1)

昨日、Tatiana de Rosnay の "Sarah's Key" を読了。一日たって、だいぶ冷静に考えられるようになったが、読みおわった直後はしばし目頭が熱くなった。 追記:その後、本書は映画化され、2010年に日本でも「サラの鍵」として公開されました。Sarah's Key: Fr…

Aravind Adiga の "The White Tiger"(結び)

本当は読了したばかりの Tatiana de Rosnay の "Sarah's Key" について書きたいのだが、行きがかり上、"The White Tiger" の話を今日こそ締めくくらないと。 この本の主人公は、今でこそ富裕層に登りつめているものの、元々は貧民で運転手兼召使い。いわゆる…

Aravind Adiga の "The White Tiger"(4)

"The White Tiger" になぜ「拍子抜けした」のか、また、"The Gathering" がなぜ深みに欠けるのか。その理由は簡単で、06年にブッカー賞を取った "The Inheritance of Loss" と比較してみればすぐに分かる。 この小説でぼくがいちばん感心したのは、各人の喜…

Aravind Adiga の "The White Tiger"(3)

昨日はホメホメおじさんになってしまったが、それならなぜ「この程度で受賞かと、いささか拍子抜けしてしまった」のか。それを考える前に、ここ3年間のブッカー賞受賞作の傾向を調べてみよう。 まず06年だが、ぼくはこの年、受賞作の発表前に読んだのは、Ka…

Aravind Adiga の "The White Tiger"(2)

昨日はかなり辛口の感想になってしまったけれど、いくつかセールスポイントもないわけではない。 何より共感を覚えるのは、「主人公が運転手として富裕層に接することで感じた願望、羨望、欲望の数々」。インドの社会が実際はどんなものなのか、ぼくには見当…

Aravind Adiga の "The White Tiger"(1)

Aravind Adiga の "The White Tiger" を読了。ご存じ今年のブッカー賞受賞作だが、たしかに面白いことは面白いけれど、はて、この程度で受賞かと、いささか拍子抜けしてしまった。The White Tiger: A Novel (Man Booker Prize)作者: Aravind Adiga出版社/メ…

"Moby-Dick" と「闇の力」(12)

友よ、もし君が(川の)こちら側に住んでいたとしたら、僕は人殺しになるだろうし、君をこんなふうに殺すのは正しくないだろう。だが、君は向こう側に住んでいる以上、僕は勇士であり、これが正しいことなのだ。 パスカルの『パンセ』の一節である。川ひとつ…

"White Tiger" 雑感

この秋最大の話題作と言ってもいい Aravind Adiga の "The White Tiger" を読みだしたところだが、なかなか快調。今のところ、インドの貧しい家に生まれ育った主人公が(たぶん)成り上がる過程を描いたもので、召使い同士の駆け引きなどリアルで面白い。が…

William Maxwell の "The Chateau"(2) 

ベルジャーエフによれば、プルーストは「人間の意識における道徳的葛藤などまったく眼中になかった」そうだが、ひょっとしたら、これがその昔、『失われた時を求めて』を邦訳で読みはじめて挫折した原因かもしれない…などとエラそうなことは言うまい。何しろ…

William Maxwell の "The Chateau"(1)

何日も前に William Maxwell の "The Chateau" を読了していたのだが、"Moby-Dick" と「闇の力」について考えるほうが面白く、今日までなかなかレビューが書けなかった。 The Chateau作者: William Maxwell出版社/メーカー: Vintage Classics発売日: 2000/12…

"Moby-Dick" と「闇の力」(11)

結局、エイハブは偉大な英雄だったのか、それとも、極悪非道の悪人だったのか。「理性の狂気」という「闇の力」に突き動かされ、絶対的な正義を追求した結果、現実の世界に置き換えれば虐殺をもたらしたという意味では後者である。だが、海の藻屑と消えさる…

"Moby-Dick" と「闇の力」(10)

まあ簡単に言ってしまえば、人間を強く惹きつけ、自己制御が不可能にまでに狂わせる真善美の力、もしくは逆に、真善美を手にいれようとする理性では抑えきれない衝動が「闇の力」なのだと、ぼくは漠然と考えている。ニーチェなら、真善美ではなく「力」と言…

"Moby-Dick" と「闇の力」(9)

いやはや、とんでもない脱線をしてしまったものだ。2週間前に観た『愛の嵐』の感想で、「男と女が結びつくとき、そこには理性では計り知れない闇の力が働くことがある」と書いたのがきっかけで、すっかり「闇の力」のとりこになってしまった。 あの映画には…

"Moby-Dick" と「闇の力」(8)

人が自分の理想を追求すればするほど他人の存在を忘れ、その理想しか見えなくなり、あげくの果てに自分も他人も破滅に導いてしまう。ぼくは昨日、ミルトン・スターンが指摘した「公式」をこのように要約したが、この「理想主義的ヴィジョン」から「自己の抹…

"Moby-Dick" と「闇の力」(7)

「神たらんとした」エイハブが悪魔的な人物と化した理由について考えるには、ミルトン・スターンの指摘が参考になる。スターンによれば、メルヴィルの作品の主要な人物はいずれも「絶対の追求者」であり、その行動にはこんな「一定の公式」が認められるとい…

"Moby-Dick" と「闇の力」(6)

だが一方、「アダム以降の全人類の怒りと憎しみの総計」を白鯨にぶつけたエイハブが「偏執狂のとりこ」となり、「凶暴な狂人ぶりを発揮し」たこともまた事実である。これは、彼が同時に偉大な人間であったことと矛盾しない。白鯨を「根元的な悪の存在」と見…

"Moby-Dick" と「闇の力」(5)

エイハブはとにかく偉大な人間だった。その偉大さは、カリスマ性は、直接的にはもちろん、白鯨と対決することから生まれたものである。人間の力をはるかに上回る相手と戦うことにより、人間そのものの水準が引き上げられたのだ。この点、映画『白鯨』のグレ…

"Moby-Dick" と「闇の力」(4)

エイハブはたしかに「狂的なまでに自分の理想を追求し」、あげくの果てに、乗組員ともども海の藻屑となってしまう。だが、その「破滅」は決して文字どおりの破滅ではない。なぜなら、メルヴィルはエイハブを単なる狂人としては描かなかったからだ。彼に惨め…