ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2016-01-01から1年間の記事一覧

"The True Deceiver" 雑感 (2)

年内に本書を読みおえようと思っていたのに、もう大晦日。仕事はひと休みにしたものの、掃除やら買い物やら、年末恒例の雑用に追われ、少ししか進まなかった。 そこできょうは、文字どおり雑感だけ。最初はこれ、映画『太陽がいっぱい』や『マッチポイント』…

"The True Deceiver" 雑感 (1)

きょうの午前中で、今年の仕事は終了。ということにしておこう、ひとまず。明日も〈自宅残業〉を続けてもいいのだが、ちと疲れた。 年の瀬になると、亡くなった父もある日、午後早くに家に帰ってきたものだ。それが12月28日だとわかったのはいつのことだろう…

Ali Smith の “Autumn” (3)

「なぜ秋なのか」。ぼくはそう疑問に思いながら本書を読みつづけたが、一方、ぜったい確実に起こる出来事がふたつあるとも思っていた。 まず、「療養所でこんこんと眠りつづけている」Daniel がいつかは目を覚ますこと。次に、101歳の彼がいずれ死を迎えるこ…

Ali Smith の “Autumn” (2)

本書には副題があり、"Seasonal 1"。してみると、これは4部作の第1巻ということなのか。 ただし、この副題、ぼくの読んだハードカバーにはなく、念のためアマゾンUKを検索したところ、そちらの画面上のタイトルにも付いていない。まさか日本だけってことは…

Ali Smith の “Autumn” (1)

ゆうべ、仕事の合間にボチボチ読んでいた Ali Smith の "Autumn" を読了。風呂に入っているうちに、レビューの書き出しだけひらめいた。さて、どんな続きになりますか。Autumn: SHORTLISTED for the Man Booker Prize 2017 (Seasonal)作者:Smith, AliHamish …

"Autumn" 雑感 (2)

やっと繁忙期がおわり、仕事はボチボチ。けれど読書もボチボチ。島倉千代子の歌をもじって言えば〈人生ボチボチ〉でんな。 日本文学の catch up もしかり。9月から始めたのだが、いま読んでいる『よるのふくらみ』でやっと7冊目。まっこと就眠儀式らしい超…

2016年ぼくのベスト3小説

いま読んでいる Ali Smith の "Autumn"、なかなかいいですな。だいぶ目鼻がついてきたので雑感の続きを書いてもいいのだが、「なかなかいい」と言っても、今年のマイベストに食い込むほどではないような気がする。 それに、今年もあと10日あまり。よほど定評…

"Autumn" 雑感 (1)

前回まで Magda の "The Door" について長々と駄文を綴ってきたが、同書の序文を書いたのが Ali Smith。その Ali Smith の最新作 "Autumn" をいま読んでいる。 これを見つけたのは、The Mookse and the Gripes の2017年ブッカー賞をめぐるスレッド。あちらの…

Magda Szabo の “The Door” (5)

当初 Emerence は「ただの偏屈ばあさん」にしか思えない。が、「私」をはじめ周囲の人たちとのバトルを通じて、彼女がじつは歴史の生き証人であり、またキリスト教の隣人愛を実践していたことがわかる。当然、彼女は多くの人々に尊敬されている。そのことも…

Magda Szabo の “The Door” (4)

まず前回の復習から。Emerence に言わせれば、「右も左も同じ」。どんなに崇高な政治理念を掲げていようとも、その者たちがいったん権力を握ったとたん、彼らは等しく all oppressors になってしまう。それが彼女の政治観、国家観、そして歴史観である。 そ…

Magda Szabo の “The Door” (3)

いつものことだが、最初は本書のテーマがよくわからなかった。いや、いまも本当に理解しているかどうか怪しいものだ。 ともあれ、これまた例によって独断と偏見で、開巻早々、これは「非常に密度の高い秀作」だ直感したものの、また、雑感で紹介したようなド…

Magda Szabo の “The Door” (2)

ニューヨーク・タイムズ紙がなぜ、本書を去年のベスト5小説に選んだのか、ようやく見当がついた。もともと2005年に出ていた英訳版が、ぼくの読んだ New York Review Books からアメリカ版として復刊? それが高い評価を得たということらしい。 ともあれ、裏…

Magda Szabo の “The Door” (1)

しばらく前に読了していたのだが、レビューらしきものを書く時間がなかなか取れなかった。おかげで印象が多少薄くなった感は否めない。 反面、いまだに心に強く残っているところもある。それがこの作品の本質にかかわっていることを願いつつ、やっと駄文を綴…

"The Door" 雑感 (2)

この週末も仕事ざんまいだった。土曜日は夕方まで職場で残業、きのうは〈自宅残業〉。まったくもって宮仕えの男はつらいよだが、すでに年金生活を始めている友人や知人もいるのでゼイタクは言えない。 さて、Magda Szabo の "The Door" だが、ようやく内容を…

"The Door" 雑感(1)

きょうは寒かった。ぼくの住んでいるところは、タクシーの運ちゃんによると「……のチベット」と呼ばれる高台にあり、朝から降りはじめた雪が何センチか積もった。それが坂下では積もらなかったという話だから、さすがチベットだと実感。 読書のほうもお寒いか…

Andrew Michael Hurley の “The Loney” (2)

この週末、法事で福井に出かけた。集まった遺族を見わたしたところ、次にお呼びがかかりそうなのは、なんとこのぼく。実際そうなったとき、みんな、こんな顔をしているんだろうな、と思わず感慨にふけってしまった。 さて、この "The Loney" だが、本ブログ…

Andrew Michael Hurley の “The Loney” (1)

きょうはまず全米図書賞の話題から。受賞作の "The Underground Railroad" はガーディアン紙で本命扱いされていたし、The Mookse and the Gripes のディスカッションでも一番人気。というわけで実際、フタをあけると大方の予想どおりだった。 が、ぼくはレビ…

2016年全米図書賞発表(2016 National Book Award Winner, Fiction)

つい先ほど(アメリカ東部時間11月16日)、今年の全米図書賞の受賞作が発表された。小説部門で栄冠に輝いたのは、大方の予想どおり Colson Whitehead の "The Underground Railroad"。米アマゾンやパブリシャーズ・ウィーク誌などでも、今年のベストテン小説…

Patrick Modiano の “Paris Nocturne”(5)

本書がらみの与太話をもうひとつだけ。今回、いつにもまして駄文を綴っているわけは、レビューでバラした以上にネタを割りたくないからだ! いや、割れないからだ! それほどまでに本書は、巧妙かつ繊細な作りになっている。大げさに言えば、全編これ布石だ…

Patrick Modiano の “Paris Nocturne”(4)

本題に入るのがすっかり遅れてしまった。宮仕えの男はつらいよ、というやつで、このところ思うように本を読んだり、駄文を綴ったりする時間がなかなか取れない。 そこで今までの記事をふりかえってみた。ゴンクール賞?ノーベル賞?何をいまさら周回遅れの記…

Patrick Modiano の “Paris Nocturne”(3)

Modiano がゴンクール賞作家と知って気になり、同賞の過去の受賞作を調べてみた。するとなんと、1903年から始まる長い歴史の中でぼくが英訳で読んだことがあるのは、Margurite Duras の "The Lover" (1984) と、Andrei Makine の "Dreams of Russian Summers…

Patrick Modiano の “Paris Nocturne”(2)

先月の中ごろ、ガーディアン紙の連載記事 'Tips, links and suggestions: what are you reading this week?' をながめていたら、背表紙の写真だけだったが、なんとなく気になる本が載っていた。"Paris Nocturne"。蠱惑的なタイトルである。 さっそくネットで…

Patrick Modiano の “Paris Nocturne”(1)

2014年にノーベル文学賞を受賞したフランスの作家、Patrick Modiano の "Paris Nocturne" (2003) を読了。さっそくレビューを書いておこう。Paris Nocturne: A Novel (The Margellos World Republic of Letters)作者:Modiano, PatrickYale University PressA…

Colson Whitehead の “The Underground Railroad” (3)

本書における現実描写でぼくがいちばん疑問に思うのは、人間の描き方である。簡単に言うと、ここには善玉と悪玉しかいない。善人でも悪人でもない、善人であると同時に悪人でもある、そういう人間がまったく存在しないのだ。 具体的には、まず奴隷の中に善人…

Colson Whitehead の “The Underground Railroad” (2)

小川洋子の『海』もなんとか読みおえたが、読了後、あれ、「海」なんて短編あったっけ、と目次を見返したら第1話だった。もう一度ぱらぱら読んでいるうちに内容を思い出した。そうか、この話だったか。 ぼくの記憶力はそんな程度なので、いちおう分析的に本…

Colson Whitehead の “The Underground Railroad” (1)

今年の全米図書賞最終候補作、Colson Whitehead の "The Underground Railroad" を読了。さっそくレビューを書いておこう。The Underground Railroad: Winner of the Pulitzer Prize for Fiction 2017作者:Whitehead, ColsonFleetAmazon[☆☆☆★★] アメリカの奴…

"The Underground Railroad" 雑感

寝床の中で小川洋子の『海』、電車とバスの中では Colson Whitehead の "The Underground Railroad" を読んでいる。どちらもなかなか進まない。 就眠儀式として読む本は、どんな名作でも10分間が限度。おかげで『博士の愛した数式』など3回も挫折。いまだに…

Jacqueline Woodson の “Another Brooklyn” (2)

このところ、われながらまるでブッカー賞ウォッチャーみたいだった。が、これはぼくの本意ではない。世界の文学界でいわば最大のお祭りに付き合っただけのこと。積ん読中の名作傑作の山を少しずつ切り崩す。それがほんとうの目標だ。 とはいうものの、おもし…

2016年ブッカー賞エピローグ

おとといの夜、The Mookse and the Grimes のディスカッションを斜め読みしていたら、どうも怪しい。Paul Beatty の話題がしきりに出てくるのだ。ぼくの勘違いだったのか。すでに消去されているので確認はできないが、発表以前に情報が漏れていた可能性はあ…

2016年ブッカー賞発表(2016 The Man Booker Prize Winner)

午前6時40分。未確認情報だが、 Paul Beatty の "The Sellout" が今年のブッカー賞を受賞! というニュースが、昨夜から現地ファンのあいだで流れている。公式サイトではまだ未発表。今年の全米批評家協会賞とあわせ、本当にダブル受賞となったのだろうか。…