ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2013-04-01から1ヶ月間の記事一覧

Maria Semple の “Where'd You Go, Bernadette” (1)

オレンジ賞改め、Women's Prize for Fiction の最終候補作、Maria Semple の "Where'd You Go, Bernadette" を読了。これは今年のアレックス賞受賞作でもあり、昨年のタイム誌の年間ベスト10小説や、Janet Maslin の10 Favorite Books にも選ばれている。さ…

“Where'd You Go, Bernadette” 雑感

まず、きのうの補足から。ぼくはヒストリカル・イフにはまったく意味がないと思っている。「もしヒトラーが誰かに殺されていたら悲惨な戦争は起こらなかっただろう」。そのとおりかもしれないが、そうでないかもしれない。なんの根拠もない仮定だ。いくら窓…

Kate Atkinson の “Life After Life” (3)

「パラレルワールドを提出することで、作者が何を訴えようとしているのか判然としない」とレビューには書いたが、じつはぼくなりに推測していることがある。 ただ、それを書くとネタバレの恐れあり。いままでの紹介で本書を読みたいと思った方は、……のあいだ…

Kate Atkinson の “Life After Life” (2)

本書がぼくの目にとまったいきさつは雑感に書いたとおりだが、いま検索すると、米アマゾンで星4つ(レビュー数141)、アマゾンUK でも星4つ(158)と、たいへんな人気を博している。この春の話題作であることは間違いないようだ。 けれども、へそ曲がりの…

Kate Atkinson の “Life After Life” (1)

Kate Atkinson の "Life After Life" をやっと読みおえた。オレンジ賞改め、Women's Prize for Fiction の最終候補作である。さっそくレビューを書いておこう。Life After Life作者:Atkinson, KateDoubleday UKAmazon[☆☆☆★] 自分の生きている現実以外に、ま…

“Life After Life” 雑感 (3)

冒頭に登場する 'Führer' はやっぱりヒトラーですな。ただ、Ursula pulled the trigger. / Darkness fell. (p.14) とあるので、このヒトラーは射殺されたはずだが、その後……というのは伏せておこう。本書のタイトルと関係があることだけは間違いない。 とも…

“Life After Life” 雑感 (2)

差し障りのない程度にすこしずつ内容をまとめておこう。まず、序盤は目まぐるしく時間と場所が変化する。このフラッシュバックの多用にどんな効果があるのか、ぼくにはどうもピンとこない。それどころか、煩わしく思えることもあるほどで、これがクイクイ度…

“Life After Life” 雑感 (1)

ようやく新刊書が手元に届いた。オレンジ賞改め、Women's Prize for Fiction の最終候補作、Kate Atkinson の "Life After Life" である。 Kate Atkinson の作品を読むのは、"When Will There Be Good News?" [☆☆☆☆] 以来、4年ぶり2冊目だ。1995年にウィッ…

David Mitchell の “Black Swan Green” (3)

ロサンジェルス時間で19日、Los Angeles Times Book Prizes の発表があり(対象は前年の作品)、小説部門では Ben Fountain の "Billy Lynn's Long Halftime Walk" [☆☆☆☆] が受賞。全米批評家協会賞とあわせて2冠達成となった。 さて、"Black Swan Green" …

David Mitchell の “Black Swan Green” (2)

なにしろ才人 David Mitchell の作品なので、「意外な展開となりそうな気もする」と期待しながら読んだのだが、結局、〈想定外〉と言えるほどの新工夫はなかった。途中、ナイフの話が出てきたときは、お、これか……と思ったのだが、ぼく好みの psychotic な方…

David Mitchell の “Black Swan Green” (1)

David Mitchell の "Black Swan Green" を読了。2006年のブッカー賞一次候補作で、2007年のアレックス賞受賞作である。さっそくレビューを書いておこう。Black Swan Green: Longlisted for the Booker Prize作者:Mitchell, DavidHodder And Stoughton Ltd.Am…

2013年女性小説賞ショートリスト (2013 Women's Prize for Fiction shortlist)

ロンドン時間で16日、オレンジ賞改め、Women's Prize for Fiction (女性小説賞)のショートリストが発表された。 "Life after Life" は、英米カナダのアマゾンで先月や今月の優秀作に選ばれている。"Flight Behaviour" は、たしか昨年11月の米アマゾン選優…

2013年ピューリッツァー賞発表 (2013 Pulitzer Prize Winner for Fiction)

ニューヨーク時間で15日、今年のピューリッツァー賞が発表され、小説部門では Adam Johnson の "The Orphan Master's Son" がみごと栄冠に輝いた。ぼくはつい先日、最終予想で同書をイチオシにあげ、「この秀作をもうそろそろ、ちゃんと評価してほしい」と書…

“Black Swan Green” 雑感

注文している新刊がまだ届かないので、場つなぎに旧作探訪。David Mitchell の "Black Swan Green" をボチボチ読んでいる。 ほんとうは、Italo Calvino の "If on a Winter's Night a Traveler" を読みおえたばかりなので、同書に Mitchell が inspire され…

Italo Calvino の “If on a Winter's Night a Traveler” (4)

実際、「本書の大前提には diversity がある」。どれか一面を採りあげて全体の象徴と見なすことはできない。これが本質だと思ったことが、つぎにはあっさり否定される。たとえば「読者編」には、'.... literature is more worthwhile the more it consists o…

Italo Calvino の “If on a Winter's Night a Traveler” (3)

大昔、金井美恵子の『書くことのはじまりにむかって』というエッセイ集を読んだことがある。中身はすっかり失念した。そもそも、あまり熱心に読んだ記憶もないが、書棚の奥に眠っていた中公文庫版をいまパラパラめくっていたら、こんな一節が目についた。 「…

Italo Calvino の “If on a Winter's Night a Traveler” (2)

雑感でもふれたように、恥ずかしながら未読の "Cloud Atlas" の前に Calvino の本書を、と思って取りかかったのだが、正直言って、かなりヘコタレましたね。こういうメタフィクションを読むのもたまにはいいけれど、しょっちゅう読んでいると胃にもたれる、…

Italo Calvino の “If on a Winter's Night a Traveler” (1)

Italo Calvino の "If on a Winter's Night a Traveler" (1979) をやっと読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。If On A Winter's Night A Traveller作者:Calvino, ItaloVintage ClassicsAmazon[☆☆☆★★★] 小説とはなにか。小説を書くとはどういうこと…

“If on a Winter's Night a Traveler” 雑感 (3)

新年度が始まり超多忙。そこへ読みはじめたのがメタフィクションとあって、すっかりカタツムリ君になってしまった。おととい紹介したように、David Mitchell は、本書の執筆をめぐる Calvino の瞑想に 'enthrall' されたとのことだが、ぼくはむしろ 'enervat…

“If on a Winter's Night a Traveler” 雑感 (2)

海外文学を読んでいると、時たま、ほんとにヘンテコな小説に出くわすものだが、本書も明らかにそのひとつだろう。いわゆるメタフィクションというやつですな。 きのう引用した冒頭からして、これからはじまる小説を読もうとしている読者の話である。それがす…

“If on a Winter's Night a Traveler” 雑感 (1)

このところ旧作探訪シリーズがつづいたので、そろそろ新刊が読みたくなったが、何冊か注文している本がまだ手元に届かない。しかたなく、Italo Calvino の "If on a Winter's Night a Traveler" (1979) を英訳版 (1981) で読みはじめた。 Calvino の作品は、…

2013年ピューリッツァー賞最終予想(final Pulitzer Prize prediction list for 2013)

いささか旧聞に属するが、去る3月27日、PPrize. Com による毎年恒例のピューリッツァー賞最終予想が発表された。これを見ると、最初の予想から6作ほど入れ替わっているが、上位の作品はほとんど動いていない。 ぼくの予想というかイチオシは、Adam Johnson…

Alice Munro の “Lives of Girls and Women” (2)

雑感でもふれたように、Alice Munro の最新短編集 "Dear Life" はオマケで☆4つ (80点) だったので、彼女の実力はこんなものではないだろうと思い、手に取ったのが本書である。こちらは文句なしに☆4つ。ぼくの評価の上限、☆☆☆☆★★ (90点) に迫る出来ばえだ。…

Alice Munro の “Lives of Girls and Women” (1)

Alice Munro の初期作品で唯一の長編小説、"Lives of Girls and Women" (1971) を読了。さっそくレビューを書いておこう。Lives of Girls and Women: A Novel (Vintage International)作者:Munro, AliceVintageAmazon[☆☆☆☆] 1940年代、オンタリオ州の田舎町…

“Lives of Girls and Women” 雑感

先週末からきのうまで、父の一周忌で愛媛の田舎に帰省していた。少しは読書にも時間を割けるかなと思っていたが、法要だけでなく、母の介護の手配に忙殺されるなど何かと気ぜわしく、ろくに読めなかった。 また、桜見物に励んだのも本から遠ざかった一因だ。…