ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2011-01-01から1年間の記事一覧

2011年ぼくのベストテン小説

今年は途中から、故双葉十三郎氏の『西洋シネマ体系 ぼくの採点表』に準じて、読んだ本を星印(☆は20点前後、★は5点前後)で評価することにした。 「芸術には試験の答案みたいな満点などありえない」というフタバ氏の持論はもっともだと思うので、ぼくも白…

Erin Morgenstern の “The Night Circus” (1)

大変遅まきながら、Erin Morgenstern の "The Night Circus" をやっと読みおえた。「遅まきながら」というのは、前から読みたかったのに諸般の事情でずっと積ん読中だったからだ。周知のとおり、パブリシャーズ・ウィークリー誌や米アマゾンなどで今年のベス…

Edith Pearlman の “Binocular Vision” (2)

あともう少しで Erin Morgenstern の "The Night Circus" を読みおえるのだが (超オモロー!)、その前に "Binocular Vision" について落ち穂拾いをしておこう。 Edith Pearlman はまったく知らない作家だったが、ここに収録されている短編の初出リストを見る…

Denis Johnson の “Train Dreams” (3)

今日はこのあと一杯やることにしているので、本書について気になる点を手っ取り早く書いておこう。 これはかいつまんで言えば、山火事で「早くに妻子を亡くした男」が深い悲しみを胸に秘めながら「長生きし…世の中の変遷を実感」する物語である。生まれたの…

Denis Johnson の “Train Dreams” (2)

この時期は例年、各メディアが選んだ優秀作品の中から読む本を決めることが多い。ぼくの基準は簡単で、(1) ペイパーバック化されているもの。(2) カバーやタイトルが魅力的。(3) あまり長くない。といったところ。内容の紹介記事やレビューはほとんど読まな…

Edith Pearlman の “Binocular Vision” (1)

今日は Denis Johnson の "Train Dreams" について落ち穂拾いをするはずだったが、先月以来中断していた Edith Pearlman の "Binocular Vision" をようやく読みおえたので、そのレビューから先に書くことにした。今年の全米図書賞候補作のひとつである。 追…

Siri Hustvedt の “The Summer without Men” (3)

自分が昔書いた "What I Loved" のレビューを読んで、そうそう、たしかにこんな作品だったな、と思い出すほど記憶力のわるいぼくだが、それでもこの "The Summer without Men" は、読みだしたときからすぐに、何だか Joseph O'Neill の "Netherland" と同じ…

Siri Hustvedt の “The Summer without Men” (2)

今週から仕事は自分のペースでやれるようになり、ホッとひと息ついている。この2ヵ月多忙をきわめただけに、しばらくノンビリしたいところだ。 というわけで、ブログをサボっているあいだも高くなりつづけた積ん読の山を切り崩そうと、まず手に取ったのが本…

Denis Johnson の “Train Dreams” (1)

今日はもともと、昨日の続きで Siri Hustvedt の "The Summer without Men" について駄文を綴るはずだったが、意外に早く Denis Johnson の "Train Dreams" を読みおえたので、印象が薄れぬうちにそのレビューを書くことにした。パブリシャーズ・ウィークリ…

Siri Hustvedt の “The Summer without Men” (1)

Siri Hustvedt の "The Summer without Men" を読了。アマゾンUKが選んだ今年のベスト小説のひとつである。さっそくレビューを書いておこう。The Summer Without Men作者:Hustvedt, SiriPicador USAAmazonThe Summer Without Men作者:Hustvedt, SiriSceptreA…

Chad Harbach の “The Art of Fielding” (3)

極度のスランプにおちいった「ヘンリーに復活の日は訪れるのだろうか」。もし訪れるとすれば、彼はどんなふうに立ち直るのか。これが後半のおもな興味のひとつである。 ぼく自身、これを読んでいるあいだ、昨日書いたような事情でさっぱり調子が出なかったた…

Chad Harbach の “The Art of Fielding” (2)

「ああ面白かった!」と昨日のレビューに書いたが、「ああ、やっと読みおえた!」というのも偽らざる実感だ。なにしろ、先週までずっと職場が繁忙期で、1日8時間パソコンの打ちっぱなしということも日常茶飯。おまけに、血圧は上がるは風邪を二度も引くは…

Chad Harbach の “The Art of Fielding” (1)

多忙やら体調不良やらで、すっかりカタツムリ君のペースだったが、Chad Harbach の "The Art of Fielding" をようやく読みおえた。ニューヨーク・タイムズ紙や米アマゾンの年間ベスト作品に選ばれるなど、間違いなく今年の超話題作の一つである。さっそくレ…

“The Art of Fielding” 雑感 (5)

体調は何とか回復したものの、仕事が相変わらず多忙をきわめ、この1週間もヘトヘト。電車の中で本書をひらくのだが、活字にさっぱり目がついて行かない。家に帰ってからはなおさらで、結局、まともに取り組んだのは昨日1日だけだった。いや、半日か。 それ…

“The Art of Fielding” 雑感 (4)

この1週間もブログをサボってしまった。過労のせいか風邪をひいてしまい、さりとて、職場が繁忙期ゆえ休みを取るわけにも行かず、毎日フラフラしながら仕事に励んでいた。唯一の救いは、ぼくの部署が過去最高の業績をあげたこと。今年は今まで胃の痛い思い…

“The Art of Fielding” 雑感 (3)

すっかりブログをサボってしまった。今週は、祭日はあったけれど職場が今年最後の繁忙期に入り、家に帰ると疲れがどっと出てきてバタンキュー。とても本を読む気にはなれず、米アマゾンで買ったブルーレイ版「フェリーニのアマルコルド」の英語字幕を追いか…

“The Art of Fielding” 雑感 (2)

体調はまずまず回復してきたが、先週末は土曜出勤→ストレス→痛飲→日曜の朝寝坊という、最近よくあるパターン。いけませんな。ただ、飲みながら久しぶりに観た「忍ぶ川」がとてもよかった。ぼくはべつにコマキストではないが、彼女はこの作品1本で心に残って…

“The Art of Fielding” 雑感 (1)

ここ1週間ばかり、過労のせいか寒さのせいか血圧が上がり、どうも活字を追いかける気力がわいてこなかった。わざわざ米アマゾンで買ったブルーレイ版「フェリーニのアマルコルド」も、英語の字幕に目が疲れ、まだ半分しか観ていない。(画質は期待したほど…

2011年全米図書賞発表 (2011 National Book Award for Fiction)

ニューヨーク時間で11月16日、今年の全米図書賞が発表され、小説部門で Jesmyn Ward の "Salvage the Bones" が栄冠に輝いた。ぼくはてっきり、Tea Obreht の "The Tiger's Wife" が受賞するものと思いこんでいたので意外な結果だ。このところ1日1話のカタ…

“Binocular Vision” 雑感 (3)

相変わらずボチボチ読みつづけ、やっと binocular vision というフレーズが出てくる話にたどりついた。これまた「さしたる事件は何も起こらないと言っていいのに、案外よく出来ている」。ある日突然、ボストン郊外の町にアイルランド系の夫と日系の妻がふら…

Michael Ondaatje の “The Cat's Table” (2)

ぼくにはこれ、かなり退屈な作品だったが、あちらの評判はとてもよく、ギラー賞こそ逃したものの、カナダでは発売当初からベストセラーだし、つい最近発表された米アマゾンの年間ベスト10小説にも選ばれている。 ぼくが本書にケチをつけたのは、本文にもその…

2011年ギラー賞発表 (2011 Scotiabank Giller Prize)

トロント時間で11月8日、ギラー賞の発表があり、Esi Edugyan の "Half Blood Blues" が栄冠に輝いた。同書は今年のブッカー賞の最終候補作にも選ばれている。ジャズ・ファンにはごきげんのミュージック・シーンがあり、マイルス・デイヴィスかウィントン・…

Michael Ondaatje の “The Cat's Table” (1)

今年のギラー賞最終候補作、Michael Ondaatje の "The Cat's Table" を読みおえた。さっそくいつものようにレビューを書いておこう。The Cat's Table作者:Ondaatje, MichaelKnopfAmazon[☆☆☆★] 本文を引用すれば「通過儀礼」がテーマのはずで、事実、ここには…

“The Cat's Table” 雑感 (2)

昨日は結局、こちらの続きを読むことにした。短編集ならいつでも気軽に戻れるが、長編はいったん離れると、元の流れを思い出すのに時間がかかり、印象がぼやけてしまう恐れがある。それに、ギラー賞の発表が目前に迫っている。ぼくにしては珍しくハードカバ…

“Binocular Vision” 雑感 (2) と “The Cat's Table” 雑感 (1)

今週は仕事三昧で、文化の日も終日「自宅残業」に追われ、今日も土曜なのに出勤。おかげで本はボチボチしか読めなかった。 まず "Binocular Vision" だが、前回、「どの物語も幕切れで、それまで深く潜行していた感情が水面にぱっと浮かんできて、波紋が一気…

“Binocular Vision” 雑感 (1)

このところ長編と短編集を交互に読んでいて、今回は長編のまわり。実際、Alison Espach の "The Adults" に取りかかっていたのだが、今年の全米図書賞の候補作、Edith Pearlman の短編集、"Binocular Vision" が意外に早く手元に届いた。見ると、Ann Patchet…

Yiyun Li の “Gold Boy, Emerald Girl” (2)

Yiyun Li は「中国のチェーホフ」と呼ばれているらしい。たぶん基本知識なんだろうけど、ぼくは不勉強で、本書の裏表紙にある書評の抜粋を読むまで知らなかった。 チェーホフですか。書棚には Penguin 版、Vintage 版、Bantam 版などの短編集が何冊か鎮座し…

Yiyun Li の “Gold Boy, Emerald Girl” (1)

今年のフランク・オコナー国際短編賞の最終候補作、Yiyun Li の "Gold Boy, Emerald Girl" を読みおえた。さっそくいつものように、まずレビューを書いておこう。Gold Boy, Emerald Girl: Stories作者:Li, YiyunRandom House Trade PaperbacksAmazon[☆☆☆★★★]…

“Gold Boy, Emerald Girl” 雑感

今週はバテバテ。明日も出勤なのでユーウツだ。今読んでいるのは今年のフランク・オコナー国際短編賞の最終候補作、Yiyun Li の "Gold Boy, Emerald Girl"。Yiyun Li といえば、この賞の第1回受賞作、"A Thousand Years of Good Prayers" (05) で有名な作家…

Kyung-Sook Shin の “Please Look After Mom” (3)

当たるも八卦当たらぬも八卦、本書が「世界的なベストセラーとなりそうな予感がする」理由をもうひとつ述べておくと、これを読めば、どこの国の人でも「心の原風景」を思い出すのではないだろうか。この母親のひたすら献身的な姿に接すると、自分にはとても…