19世紀フランス文学
Rohinton Mistry のことは前から気になっていた。旧作が2つ、ブッカー賞のショートリストに選ばれているからだ。そこで今回、〈恥ずかしながら未読〉シリーズの一環として、まず本書(1996)を読んでみることにした。表紙は "Family Matters"(2002)のほう…
えんえん19回も雑感を書き綴ったおかげで、ようやくレビューらしきものにたどり着けた。われながら浮世ばなれした話だ。またおそらく、現代文学の趨勢とも関係ないだろう。だが、ぼくにとっては青春時代以来の再々読であり、自分なりに真剣に取り組む必要が…
本書について分析らしきものを始めたとき、まさかこれほど長くかかるとは思わなかった。それだけ内容豊かな小説だということでしょう。世界十大小説の一つという看板に偽りはありません。 さて、Julien Sorel は「公人なのか、それとも私人なのか」。これは…
きょうはまず、何回か前に書いたことの復習から。ニーチェは『悲劇の誕生』でこう述べている。「エウリピデスによって観客なるものが舞台に登場させられた」結果、「悲劇は死んだ!」 アイスキュロスやソフォクレスの場合、悲劇は高貴な人物の没落や偉大な英…
Julien Sorel が tragic hero と言えるかどうかという問題を考えているとき、ふと思い出したのが、かの有名な『ロミオとジュリエット』。もちろん "The Red and the Black" と同じく、恋愛がテーマだからである。ネットで検索してみると、シェイクスピアのい…
Julien Sorel は死に臨んで人間的な弱みを見せるものの、それは Renal 夫人への思い、彼女との別れがもたらす内心の葛藤である。死そのものを本当に恐れているわけではなく、「自分が破滅へ向かうと知りながらその運命を選び、死を回避する手段を提示されな…
Julien Sorel は tragic hero なのか。そろそろこの問題に決着を付けようと思ってきのう拙文を書きはじめたのだが、はたと指が止まってしまった(昔なら、「ペンが」でしょうな。「指が」は日本語として定着しているのかしらん)。決め手は Julien がいかに…
さて、ニーチェや Steiner の言う悲劇の意味を確認したところで、Julien Sorel の人物像について改めて検討してみよう。 まず、彼の出自は賤しい。貧しい材木屋の息子で、'a man on the lowest level of Society' である。この点では明らかに tragic hero の…
若い頃、ニーチェの著作は白水社版の全集で何冊か、まめにノートを取りながら勉強したことがある。が、『悲劇の誕生』は中公版〈世界の名著〉で読んだだけで、そのうち勉強しなければと思っているうちに、夢のようにざっと40年が過ぎてしまった。 そこで、あ…
書棚の奥から George Steiner の "The Death of Tragedy" を引っぱり出してきたのも40年ぶりくらいだろうか。ついでに、学生時代に下線を引いたところを少しだけ拾い読みしてみた。今さら言うまでもなく、不朽の名著である。死ぬまでに完読しなければ、と思…
Mathilde はなぜ16世紀後半と自分の時代を較べたのだろうか。前回からどうも気になったので、メモを頼りに本書を拾い読みしたところ疑問は氷解。1574年、La Mole 家の先祖 Boniface という若い貴族が英雄的な行動を取った末に斬首され、それが時代を経たのち…
「教育の普及は、浮薄の普及也」とは明治の文豪、斎藤緑雨の有名な言葉で、のちに福田恆存も論文のタイトルに援用したことで知られる。緑雨はその言葉に続けて、「文明の齎す所は、いろは短歌一箇に過ぎず」と書いている。ひょっとしたら、「文明の発達は浮…
Mme de Renal と Mathilde を較べてみると、「人は性格が異なれば恋愛の仕方も異なるもの」と思い知らされる。若い頃のぼくは気がつかなかったか、まるで関心もなかった常識である。あまりにも当たり前すぎて、おもしろくも何ともない、というのが大人の感想…
さて、Mathilde にかかわる「対比の構造」をもう少し探ってみよう。 まず Julien との恋だが、じっくり読めば読むほど、人は性格が異なれば恋愛の仕方も異なるものだ、という当たり前のことを改めて思い知らされる。いや、「当たり前のことを改めて」なんて…
この連休を利用して郷里の愛媛県宇和島市に帰省。つかのまではあったが、ざっと40年ぶりの田舎の秋を満喫してきた。とりわけ、秋になると、ここはこんな景色に様変わりするのか、という意外な発見が楽しかった。 読書も同じことで、40年ぶりに "The Red and …
主人公 Julien Sorel にかんする対比は、だいたい今まで報告したとおりである。では、彼がのちに 'You must know that I have always loved you, that I have never loved any one but you.' (p.514) と告白することになる、いわば永遠の恋人 Mme de Renal …
本書はなにしろ名作中の名作である。ぼくがここで書いていることなど、世界文学ファンなら先刻承知の常識ばかりだと思うが、ざっと40年ぶりに読み返してみると、例によって不勉強のぼくには意外な発見があり、なかなかおもしろい。 たとえば、タイトル以外に…
Julien Sorel はナポレオンに心酔し出世を夢見る野心家で、プライドもすこぶる高い。が一方、Mme de Renal との出会いの場面からわかるように、うぶで shy、純情な青年でもある。こうした彼のキャラも対比の一例である。 これに対し、彼を家庭教師に雇った市…
読みはじめてふとタイトルを見ると、"Chronicle of 1830" という副題がついていた。なるほど。まことにお恥ずかしい話だが、ぼくは中学、そして大学時代の記憶から、本書が恋愛小説だとばかり思っていた。いや、恋愛小説には違いないのだが、より正確には「…
ざっと40年ぶりに、今度は英訳で取りかかった本書だが、ぼくにしては珍しく大筋を憶えていた。主人公はジュリアン・ソレルという美青年で、彼はまずレナール夫人という美しい女性に恋をする。次に、貴族の娘でこれまた美女のマチルドと恋仲になる。それから…
このところずっと、夏に読んだ "Klingsor's Last Summer" のおさらいをしていたが、じつはその一方、Stendhal の "The Red and the Black" をボチボチ読んでいた。ご存じ世界十大小説のひとつに数えられる名作中の名作である。 これは、ぼくが英語で読みレビ…
フローベールの名作『ボヴァリー夫人』を Oxford World's Classics 版で読みおえた。今までの雑感とたいして変わらないが、さっそくレビューを書いておこう。 本書は1933年にジャン・ルノワール監督作品として初めて映画化され、その後も何度か映画化されて…
トーマス・マンの "Confessions of Felix Krull, Confidence Man" を読んでいるのだが、英語は易しいのにどうも進まない。そこで今日は、昔のレビューでお茶を濁すことにした。 追記:本書は2004年に映画化されました。 Old Goriot (The Human Comedy)作者: …