ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

ドイツおよび中欧文学

Peter Handke の “A Sorrow Beyond Dreams”(2)

遅ればせながら、今年の全米批評家協会賞(対象は去年の作品)の最終候補作をチェックしたところ驚いた。なんと Mieko Kawakami の "All the Lovers in the Night" がノミネート! 原作は2014年刊だが、どうやら昨年英訳が刊行されたものらしい。周回遅れの…

Heinrich Böll の “The Lost Honor of Katharina Blum”(2)

ゆうべ、一杯やりながらピエトロ・ジェルミ監督の『刑事』(1959)を観たあと、Wiki で調べて驚いた。Carlo Emilio Gadda の "That Awful Mess on Via Merulana"(1957)が原作とはちっとも知らなかった。いまさらながら、恐ろしい無知ですな。でもきっと、…

Peter Handke の “A Sorrow Beyond Dreams”(1)

オーストリアのノーベル賞作家 Peter Handke(1942 - )の "A Sorrow Beyond Dreams"(1972, 英訳1974)を読了。1971年に自殺した Handke の母 Maria の思い出が綴られた作品である。さっそくレビューを書いておこう。 [☆☆☆★★] 肉親の死について語るのは気が…

Heinrich Böll の “The Lost Honor of Katharina Blum”(1)

先週ジブリパークへの旅行の行き帰り、新幹線のなかで読みはじめたドイツのノーベル賞作家、Heinrich Böll(1917 - 1985)の "The Lost Honor of Katharina Blum"(1974, 英訳1975)を数日前読了。諸般の事情で、レビューをでっち上げるのがきょうまでズレこ…

Robert Walser の “Jakob von Gunten”(2)

スイスの作家 Robert Walser(1878 – 1956)のことは、レビューのイントロにも書いたとおり、もう10年ほど前だったか、いまは亡き優秀な英文学徒T君に教えてもらった。「Walser はいいですよ」という彼のことばは、いまだにはっきり耳にのこっている。 どこ…

Robert Walser の “Jakob von Gunten”(1)

きのう、スイスの作家 Robert Walser(1878 – 1956)の "Jakob von Gunten"(1909, 英訳1969)をやっと読了。Walser のことは、いまから10年ほど前、優秀な英文学徒T君に教えてもらった。以下のレビューは、彼の墓前に捧げるものである。 Jakob von Gunten …

Veza Canetti の “The Tortoises”(2)と、再読したいナチス関連作品一覧

今回からやっと先月の落ち穂拾い。表題作を手にしたきっかけはウロおぼえだが、たぶん、「ウクライナの非ナチ化」という例のプロパガンダ。「非ナチ化?なにそれ?」と思ったものだけど、そんな時代錯誤のような cause でさえ戦争の cause になるのだから恐…

Veza Canetti の “The Tortoises”(1)

数日前にオーストリアの女流作家、Veza Canetti(1897 - 1963)の "The Tortoises"(1939)を読みおえたのだが、諸般の事情で、なかなかレビューをでっち上げる時間が取れなかった。はて、どうなりますか。(なお、Veza の夫はノーベル賞作家の Elias Canett…

Pascal Mercier の “Night Train to Lisbon”(2)

この英訳版は2008年に刊行されたものだが、いつ、どんなきっかけで手に入れたのかも憶えていない。"Night Train to Lisbon" って、いいタイトルだなと思ったのか、それとも、ロマンティックなカバー写真に惹かれたのか。どちらにしても、ぼくはいつも内容を…

Pascal Mercier の “Night Train to Lisbon”(1)

スイスの作家で哲学者 Pascal Mercier の世界的なベストセラー、"Night Train to Lisbon"(原作2004、英訳2008)を読了。本書は2013年、ビレ・アウグスト監督によって映画化。日本でも2014年、『リスボンに誘われて』という邦題で公開されている。さっそくレ…

Günter Grass の “Cat and Mouse”(2)

ブッカー国際賞の発表が迫ってきた(ロンドン時間5月21日)。去年に引き続き、今年も発表前に読んだ最終候補作は2冊だけ。 去年は現地ファンの下馬評で1番人気だった Hang Kang の "The White Book"(☆☆☆★★)と、3番人気だった Ahmed Saadawi の "Franke…

Günter Grass の “Cat and Mouse”(1)

Günter Grass の "Cat and Mouse"(原作1961、英訳1997)を読了。周知のとおり、これは "The Tin Drum"(1959 ☆☆☆☆★★)に始まるダンツィヒ三部作の第二作である。さっそくレビューを書いておこう。 CAT AND MOUSE 作者: Gunter Grass 出版社/メーカー: Rando…

W. G. Sebald の “Austerlitz”(2)

もっか、父の七回忌その他で愛媛の宇和島に帰省中。桜は先週が見頃だったらしいが、いまはもうほとんど葉桜ばかり。かろうじて残っている花も、きょうの雨ですっかり散ってしまうことだろう。 その代わり、きのう訪れた市内天赦園の上り藤は、受付の案内によ…

W. G. Sebald の “Austerlitz”(1)

きょうは Patrick Modiano の "In the Cafe of Lost Youth" について若干補足するはずだったが、ゆうべ、W. G. Sebald の "Austerlitz"(2001)を読了。周知のとおり、2001年の全米批評家協会賞受賞作である。さっそくレビューを書いておこう。 追記:本書は…

Jenny Erpenbeck の “The End of Days”(1)

きのう、Jenny Erpenbeck の "The End of Days"(2012)をやっと読了。ドイツ語からの英訳版で、2015年の Independent Foreign Fiction Prize の受賞作。2016年の国際IMPACダブリン文学賞の最終候補作でもある。The End of Days作者:Erpenbeck, JennyGranta …

Thomas Mann の “Death in Venice”

Thomas Mann の短編は高校生のとき、途中で挫折したり、最後まで読んでも読んだ気がしなかったり。以来、長らく宿題となってしまったが、昨年末、Vintage 版で悪戦苦闘しながら読了。それからさらに雑感を書きつづけ、今日やっと、以下のレビューらしきもの…

Hermann Hesse の “Klingsor's Last Summer”

実際に読んだのは去る8月だが、その後、メモを頼りに拾い読みした結果、なんとかレビューらしきものが書けそうな気がしてきた。がんばれや!(郷里の宇和島弁) ※ぼくが読んだペイパーバック版は表紙をアップできなかったので、別の版のものを掲示した。た…

Robert Musil の “Five Women” (1)

もう10日以上も前に Robert Musil の英訳短編集 "Five Women" を読了していたが、公私ともども諸般の事情で忙しく、きょうまでレビューを書く時間が取れなかった。早くもだいぶ記憶が怪しくなっているが、メモを見ながらがんばってみよう。Five Women (Verba…

W. G. Sebald の “The Rings of Saturn” (4)

きのうも写真を載せたが、これがその昔、ぼくの住んでいた長屋でいまは無人。たまたま出会った近所の人の話によると、部屋なのか家なのか隣りはいつぞやの台風で倒壊し、このとおり更地になっている。 と、こんなことを書くのも Sebald の真似で、"The Rings…

W. G. Sebald の “The Rings of Saturn” (3)

ブログを休んでいるあいだ、読書のほうも本書をボチボチ読んでいた以外はさっぱりだったが、映画はテレビでけっこう観ていた。いちばんノックアウトされたのは、久しぶりに観た『緋牡丹博徒・花札勝負』。いやもう、お竜さんの美しいこと! ブルーレイ版が出…

W. G. Sebald の “The Rings of Saturn” (2)

「こまめにブログを更新していたのに、11月になってパタッと休止したのはどうしてか。何かあったのか」というメールを友人からもらった。 なに、仕事三昧だっただけのことです。 その友人は文学の門外漢だが(ぼくもまあ素人ですが)、文学に関心のある友人…

W. G. Sebald の “The Rings of Saturn” (1)

長らくブログを休止していたが、先日 W. G. Sebald の "The Rings of Saturn" を読みおえ、きょうやっとレビューを書く時間ができた。さて、どんな駄文になりますか。The Rings of Saturn作者:Sebald, W.G.Random House UK LtdAmazon[☆☆☆☆] 看板に偽りあり。…

“The Rings of Saturn” 雑感 (2)

おなじ作家の作品を読むのも2冊めとなると、初見のときには気づかなかったことも気になるものだ。 去年読んだ "Vertigo" と同様、この "The Rings of Saturn" も一種のトラヴェローグの体裁を取っている。いまのところ舞台はイギリス、サフォーク州の田舎。…

“The Rings of Saturn” 雑感 (1)

この2週間、あれに手を出したり、これに目が向いたり、いろいろ読みかじってみたが、どうもしっくりするものと出会わなかった。疲労困憊の毎日で、通勤電車の中で活字を追いかけているとすぐに眠くなる。歳のせいで夜の10時を過ぎると寝床が恋しくなる、と…

W. G. Sebald の “Vertigo” (2)

はてさてドジなことに、第1章の主人公 Marie Henri Beyle がスタンダールの本名だったとは、裏表紙の紹介記事を読むまで思いもつかなかった。途中、"De L'Amour" が出てきたところでピンとくるべきでしたね。 それよりヒドイのは、昨日のレビューを書いてい…

W. G. Sebald の “Vertigo” (1)

昨日の夕方、W. G. Sebald の "Vertigo" を読了。晩酌にワインをボトル半分飲んだあと、酔ったいきおいでレビューを書きはじめたが、夜の11時ごろ、わけがわからなくなり中断した。一夜明けてなんとか書きおえた次第である。Vertigo作者:Sebald, W.G.Vintage…

“Vertigo” 雑感

注文していた Will Self の "Umbrella" が今日届いたが、難物の予感。昨日からボチボチ取りかかった W. G. Sebald の "Vertigo" を引きつづき読むことにした。8月からスタートした私的な〈世界文学の夏〉シリーズのドイツ編である。9月なのに夏というのも…

Hans Keilson の “Comedy in a Minor Key”(1)

このところパッとしない体調だったが、今年の全米批評家(書評家)協会賞の最終候補作、Hans Keilson の "Comedy in a Minor Key" を何とか読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。Comedy in a Minor Key (Modern Voices)作者: Hans Keilson出版社/メ…

Hans Fallada の “Alone in Berlin”(1)

今日も休日出勤だったが、仕事の合間になんとか本書を読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。Alone in Berlin (Penguin Modern Classics)作者: Hans Fallada,Michael Hofmann出版社/メーカー: Penguin Classics発売日: 2010/01/28メディア: ペーパー…

Herta Muller の "The Land of Green Plums"(1)

諸般の事情で予定より大幅に遅れてしまったが、今年のノーベル文学賞受賞作家、Herta Muller の代表作のひとつ、"The Land of Green Plums" を何とか読みおえた。今まで2回の雑感のまとめになりそうだが、さっそくまず、いつものようにレビューを書いておこ…