ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

中近東文学

Orhan Pamuk の “The Red-Haired Woman”(2)

(1)の結びで挙げたとおり、ぼくがいままで読んだ Orhan Pamuk の作品は7冊だが、そのうち1冊だけ再読するとしたら、やはり "My Name Is Red"(1998 ☆☆☆☆★)だろう。 ひとつには、同書がとても面白いミステリでもあるからだ。ふたつめに、犯人がだれか忘…

Orhan Pamuk の “Snow”(3)と既読作品一覧

今回のウクライナ侵攻では二次的な問題かもしれないが、トルコってフシギな国だな、と思ったひとも多いのではないか。実効性のほどはさておき、トルコがロシアとウクライナの仲介役となり、戦争当事国の外相会談がトルコでひらかれた。うん? なぜトルコなの…

Orhan Pamuk の “Snow”(2)

連日ウクライナ情勢の報道に接しているうち、過去記事で red or dead という問題にふれたことがあるのを思い出した。 red or dead とは、冷戦時代、西側の人びとが旧ソ連の核の脅威に屈して共産主義を選ぶか、それとも、自由と民主主義を守るために核戦争も…

Orhan Pamuk の “The Red-Haired Woman”(1)

きのう、Orhan Pamuk の近作 "The Red-Haired Woman"(2016)を読了。さっそくレビューを書いておこう。 The Red-Haired Woman (Vintage International) 作者:Pamuk, Orhan Vintage Amazon [☆☆☆★★★] 現代のトルコを舞台にしたパムク版『オイディプス王』。こ…

Orhan Pamuk の “Snow”(1)

3回目のコロナ・ワクチン接種を受けたあと、高熱を発するなど副反応がひどく、体調が完全に回復するまでかなり時間がかかった。そのかんボチボチ読んでいたのが Orhan Pamuk の "Snow"(2002)。はて、どんなレビューになりますやら。 Snow (English Editio…

"Snow" 雑感と、文学におけるヒーローの死

力のない正義は無力であり、正義のない力は圧政的である。(パスカル『パンセ』) ウクライナでは連日、この箴言どおりの状況がつづいている。それは紀元前416年、ペロポネソス戦争のさなかに起きたメロス包囲戦を思わせるものだ。トゥキディデスの『戦史』…

Orhan Pamuk の “The Black Book”(3)

相変わらずボチボチだが "Mrs Dalloway"(1925)を読んでいる。タイトルどおり、主人公はいちおう Mrs Dalloway と思われる。いちおう、というのは、Mrs Dalloway は前回ふれた元カレ Peter Walsh との再会以後、全体のほぼ4分の1ほども登場しないからだ。…

Orhan Pamuk の “The Black Book”(2)

Virginia Woolf の "Mrs Dalloway"(1925)をボチボチ読んでいる。年始にぼんやり立てた予定より1ヵ月遅れだ。Woolf はちょうど1年前に取り組んだ "To the Lighthouse"(1927 ☆☆☆☆★)が初見で、今回が2冊目。 同書を読んだとき、なにしろ Virginia Woolf …

Orhan Pamuk の “The Black Book”(1)

数日前、やっと Orhan Pamuk の "The Black Book"(1990, 英訳2006)を読了。長い中断があり、読みおわってからも、すぐにはレビューを書く時間が取れなかった。はて、どんなレビューもどきになりますやら。 The Black Book (Vintage International) 作者:Pa…

"The Black Book" 雑感

きょうは "Fingersmith"(2002)の落ち穂ひろいをしようか、とも思ったのだけど、Sarah Waters はもうすぐ "Affinity"(1999)を読む予定。実際取りかかったときにでも思い出してみよう。 その前にまず表題作を片づけないと。やっとまた読みはじめたのだけれ…

Khaled Hosseini の “The Kite Runner”(3)

この数日風邪気味だったがどうやら復調したようなので、前回のつづきを。タリバンはなぜ復権したのか。アフガニスタンでは西欧型の民主主義は実現可能なのか。本書にかぎらず、そんな関心で小説を読むのは邪道だが、「いまの日本の状況、ひいてはぼく自身の…

Khaled Hosseini の “The Kite Runner”(2)

え、あんたこれ、まだ読んでなかったの? いやはや、恥ずかしながらそうなんです。Wiki によると、It appeared on the New York Times bestseller list for over two years, with over seven million copies sold in the United States. とのこと。そんな超…

Khaled Hosseini の “The Kite Runner”(1)

Khaled Hosseini の大ベストセラー "The Kite Runner"(2003)を読了。周知のとおり、これは2007年に映画化され日本でも公開されている。邦題は『君のためなら千回でも』。さっそくレビューを書いておこう。 The Kite Runner (English Edition) 作者:Hossein…

Orhan Pamuk の “A Strangeness in My Mind”(2)

師走が近づいてきて、テンプのぼくもそれなりに忙しくなってきた。おかげで、というか毎度のことだけど、いま読んでいる本もなかなか進まない。Don Delillo のご存じ超大作 "Underworld"(1997)である。 え、あんたまだ読んでなかったの、と嗤われそうだが…

Orhan Pamuk の “A Strangeness in My Mind”(1)

トルコのノーベル賞作家、Orhan Pamuk の "A Strangeness in My Mind"(原作2014、英訳2015)を読了。2016年のブッカー国際賞最終候補作である。さっそくレビューを書いておこう。 A Strangeness in my Mind: A novel (Vintage International) (English Edit…

Elif Shafak の “10 Minutes, 38 Seconds in This Strange World”(1)

ゆうべ、今年のブッカー賞最終候補作、Elif Shafak の "10 Minutes, 38 Seconds in This Strange World"(2019)を読了。さっそくレビューを書いておこう。 10 Minutes 38 Seconds in this Strange World 作者: Elif Shafak 出版社/メーカー: Viking 発売日:…

Jokha Alharthi の “Celestial Bodies”(1)

楽あれば苦あり。フランス旅行が一睡の夢のように終わったあと、帰国した翌日からボチボチ仕事を始め、今週はけっこう忙しい。といっても、自分で課したノルマをこなすだけなので、実際には、少し苦あり。 旅行中、バッグの底に忍ばせていた Jokha Alharthi …

Orhan Pamuk の “The Museum of Innocence”(2)

大型連休の初日。ぼくも久しぶりにのんびり朝から本を読んで過ごした。こんな日は、やむを得ぬ事情で今月から元の職場に復帰して以来、初めてかもしれない。 そこでやっと、Orhan Pamuk の "The Museum of Innocence"(原作2008、英訳2009)の落ち穂拾いをす…

Orhan Pamuk の “The Museum of Innocence”(1)

Orhan Pamuk の "The Museum of Innocence"(原作2008、英訳2009)を読了。周知のとおり、これは彼のノーベル文学賞受賞第一作である。さっそくレビューを書いておこう。 The Museum of Innocence 作者: Orhan Pamuk,Maureen Freely 出版社/メーカー: Faber …

Orhan Pamuk の “The White Castle”(3)

ここ数日、いままでサボっていた過去記事の分類をボチボチやっていた。中にはタイトルを見ただけでどんな本かすぐに思い出したものもあるが、それはレアケース。レビューを読み返してもピンと来ない本のほうが圧倒的に多い。 そんなときは前後の記事から判断…

Orhan Pamuk の “The White Castle”(2)

恥ずかしながら、Orhan Pamuk の作品を読んだのは本書が2冊目。日本では「オルハン・パムク」と表記されていることも、何ヵ月か前に “My Name Is Red”(1998 ☆☆☆☆★)を読むまで知らなかった。 宮仕えの時代にこのノーベル賞作家を敬遠していたのは、同書を…

Orhan Pamuk の “The White Castle”(1)

きのう、ノーベル賞作家 Orhan Pamuk の "The While Castle"(1985)を読了。さっそくレビューを書いておこう。(追記:本書は、1990年に創設されたインディペンデント紙外国小説最優秀作品賞の第一回受賞作でした)。 The White Castle (Vintage Internatio…

Kamila Shamsie の “Home Fire”(1)

今年の女性小説賞(前ベイリーズ賞、旧オレンジ賞)受賞作、Kamila Shamsie の "Home Fire"(2017)を読了。さっそくレビューを書いておこう。Home Fire: WINNER OF THE WOMEN'S PRIZE FOR FICTION 2018 (High/Low)作者:Shamsie, KamilaBloomsbury UKAmazon[…

Orhan Pamuk の “My Name Is Red”(2)

何度か(2)を書こうと思いつつ、きょうまでズレこんでしまった。泣く子も嗤うような〈恥ずかしながら未読シリーズ〉だからだ。どんな感想を述べても、何かの記事の二番煎じでしょう。 ということで、まず周辺情報から。本書は国際IMPACダブリン文学賞受賞…

Orhan Pamuk の “My Name Is Red”(1)

きのう、2003年の国際IMPACダブリン文学賞受賞作、Orhan Pamuk の "My Name Is Red"(1998)を読了。原語はトルコ語。一日寝かせたところでレビューの書き出しが頭にちらついてきた。さてどうなりますか。My Name is Red作者:Pamuk, OrhanFaber And Faber Lt…

Amos Oz の “A Tale of Love and Darkness”(2)

老後の生活は悠々自適と期待していたが、あに図らんや、このところ何かと雑用に追われ、思うように本が読めない。ブログも更新する気になれなかった。そんないま、ボチボチ読んでいるのが Salman Rushdie のご存じ "Midnight's Children"(1981)。 え、ホン…

Amos Oz の “A Tale of Love and Darkness”(1)

イスラエルの作家 Amos Oz の自伝小説 "A Tale of Love and Darkness"(2002)を読了。原書はヘブライ語で、英訳の刊行は2004年。Wiki ではノンフィクション・ノヴェルに分類されている。さっそくレビューを書いておこう。A Tale Of Love And Darkness作者:O…

Ahmed Saadawi の “Frankenstein in Baghdad”(1)

今年のブッカー国際賞最終候補作、Ahmed Saadwi の "Frankenstein in Baghdad" を読了。アラビア語の原書は2013年刊、英訳版は2018年刊である。さっそくレビューを書いておこう。FRANKENSTEIN IN BAGHDAD作者:Saadawi, AhmedPenguin BooksAmazon[☆☆☆★★] フセ…

Ahdaf Soueif の “The Map of Love”(1)

1999年のブッカー賞最終候補作、Ahdaf Soueif の "The Map of Love"(1999)を読了。さっそくレビューを書いておこう。The Map of Love作者:Soueif, AhdafBloomsbury Pub LtdAmazon[☆☆☆☆] もし映画化して邦題をつけるなら『愛と宿命のエジプト』。20世紀初頭…

2017年国際ブッカー賞受賞作・David Grossman の “A Horse Walks Into a Bar”(1)

順番から言うと、きょうは Elizabeth Strout の "Anything Is Possible" の話を続ける日だが、その前に、ゆうべ読みおえた David Grossman の "A Horse Walks Into a Bar"(2016)のレビューを書いておかないといけない。 Grossman はイスラエルの作家で、本…