2015-12-01から1ヶ月間の記事一覧
ヴィスコンティの名画のほうは、なんとなく憶えている程度。だからもう一度見直さないと断定はできないが、主人公 Aschenbach が名声を博するに至ったプロセスと、彼が美とエロス、破滅を関連づけて述べた美学論のくだりは、映画ではひょっとしたらカットさ…
Aschenbach が名声を博するに至ったプロセスのほかにもう一箇所、ヴィスコンティの映画ではおそらくカットされているものと思われるくだりがある。死の数日前、彼が夢の中で Phaedrus 相手に美学論をぶつ場面だ。ここもやはり映像では表現しにくいのではない…
Aschenbach は美少年を見かけ、その 'perfect beauty' (p.25)、'the godlike beauty of the human being' (p.28) に胸を打たれる。それが結局、彼の破滅へとつながるわけだが、では彼は最初から至高の美の追究者だったのだろうか。メモを頼りに拾い読みして…
表題作はむろん発表当時 (1911) から名作の誉れが高かったものと思う。が、一般には、ルキノ・ヴィスコンティの名画『ベニスに死す』 (1971) が公開されてから世界的に有名になったのではないだろうか。その中で周知のとおり、マーラーの交響曲第5番第4楽…
Vintage 版短編集の正式なタイトルは、"Death in Venice and Seven Other Stories"。書棚の奥から、もはや入手困難らしい新潮社版トーマス・マン全集を取り出し、第8巻に収録されている短編を数えてみたころ、ぜんぶで32編。そのうち4分の1がこの英訳版と…
そのうちまた現代文学も採り上げる予定だが、今しばらく青春時代からの宿題を片づけないといけない。還暦もとうに過ぎ、お迎えが頭の片隅でちらつくようになったからだ。新聞の訃報記事を見かけると、まっ先に故人の年齢をたしかめる、という話はどこかで聞…
えんえん19回も雑感を書き綴ったおかげで、ようやくレビューらしきものにたどり着けた。われながら浮世ばなれした話だ。またおそらく、現代文学の趨勢とも関係ないだろう。だが、ぼくにとっては青春時代以来の再々読であり、自分なりに真剣に取り組む必要が…
本書について分析らしきものを始めたとき、まさかこれほど長くかかるとは思わなかった。それだけ内容豊かな小説だということでしょう。世界十大小説の一つという看板に偽りはありません。 さて、Julien Sorel は「公人なのか、それとも私人なのか」。これは…
きょうはまず、何回か前に書いたことの復習から。ニーチェは『悲劇の誕生』でこう述べている。「エウリピデスによって観客なるものが舞台に登場させられた」結果、「悲劇は死んだ!」 アイスキュロスやソフォクレスの場合、悲劇は高貴な人物の没落や偉大な英…
Julien Sorel が tragic hero と言えるかどうかという問題を考えているとき、ふと思い出したのが、かの有名な『ロミオとジュリエット』。もちろん "The Red and the Black" と同じく、恋愛がテーマだからである。ネットで検索してみると、シェイクスピアのい…
Julien Sorel は死に臨んで人間的な弱みを見せるものの、それは Renal 夫人への思い、彼女との別れがもたらす内心の葛藤である。死そのものを本当に恐れているわけではなく、「自分が破滅へ向かうと知りながらその運命を選び、死を回避する手段を提示されな…
Julien Sorel は tragic hero なのか。そろそろこの問題に決着を付けようと思ってきのう拙文を書きはじめたのだが、はたと指が止まってしまった(昔なら、「ペンが」でしょうな。「指が」は日本語として定着しているのかしらん)。決め手は Julien がいかに…
さて、ニーチェや Steiner の言う悲劇の意味を確認したところで、Julien Sorel の人物像について改めて検討してみよう。 まず、彼の出自は賤しい。貧しい材木屋の息子で、'a man on the lowest level of Society' である。この点では明らかに tragic hero の…
若い頃、ニーチェの著作は白水社版の全集で何冊か、まめにノートを取りながら勉強したことがある。が、『悲劇の誕生』は中公版〈世界の名著〉で読んだだけで、そのうち勉強しなければと思っているうちに、夢のようにざっと40年が過ぎてしまった。 そこで、あ…
書棚の奥から George Steiner の "The Death of Tragedy" を引っぱり出してきたのも40年ぶりくらいだろうか。ついでに、学生時代に下線を引いたところを少しだけ拾い読みしてみた。今さら言うまでもなく、不朽の名著である。死ぬまでに完読しなければ、と思…
Mathilde はなぜ16世紀後半と自分の時代を較べたのだろうか。前回からどうも気になったので、メモを頼りに本書を拾い読みしたところ疑問は氷解。1574年、La Mole 家の先祖 Boniface という若い貴族が英雄的な行動を取った末に斬首され、それが時代を経たのち…