ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2015-11-01から1ヶ月間の記事一覧

"The Red and the Black" 雑感(10)

「教育の普及は、浮薄の普及也」とは明治の文豪、斎藤緑雨の有名な言葉で、のちに福田恆存も論文のタイトルに援用したことで知られる。緑雨はその言葉に続けて、「文明の齎す所は、いろは短歌一箇に過ぎず」と書いている。ひょっとしたら、「文明の発達は浮…

"The Red and the Black" 雑感(9)

Mme de Renal と Mathilde を較べてみると、「人は性格が異なれば恋愛の仕方も異なるもの」と思い知らされる。若い頃のぼくは気がつかなかったか、まるで関心もなかった常識である。あまりにも当たり前すぎて、おもしろくも何ともない、というのが大人の感想…

"The Red and the Black" 雑感(8)

さて、Mathilde にかかわる「対比の構造」をもう少し探ってみよう。 まず Julien との恋だが、じっくり読めば読むほど、人は性格が異なれば恋愛の仕方も異なるものだ、という当たり前のことを改めて思い知らされる。いや、「当たり前のことを改めて」なんて…

"The Red and the Black" 雑感(7)

この連休を利用して郷里の愛媛県宇和島市に帰省。つかのまではあったが、ざっと40年ぶりの田舎の秋を満喫してきた。とりわけ、秋になると、ここはこんな景色に様変わりするのか、という意外な発見が楽しかった。 読書も同じことで、40年ぶりに "The Red and …

"The Red and the Black" 雑感(6)

主人公 Julien Sorel にかんする対比は、だいたい今まで報告したとおりである。では、彼がのちに 'You must know that I have always loved you, that I have never loved any one but you.' (p.514) と告白することになる、いわば永遠の恋人 Mme de Renal …

"The Red and the Black" 雑感(5)

本書はなにしろ名作中の名作である。ぼくがここで書いていることなど、世界文学ファンなら先刻承知の常識ばかりだと思うが、ざっと40年ぶりに読み返してみると、例によって不勉強のぼくには意外な発見があり、なかなかおもしろい。 たとえば、タイトル以外に…

"The Red and the Black" 雑感(4)

Julien Sorel はナポレオンに心酔し出世を夢見る野心家で、プライドもすこぶる高い。が一方、Mme de Renal との出会いの場面からわかるように、うぶで shy、純情な青年でもある。こうした彼のキャラも対比の一例である。 これに対し、彼を家庭教師に雇った市…

"The Red and the Black" 雑感(3)

読みはじめてふとタイトルを見ると、"Chronicle of 1830" という副題がついていた。なるほど。まことにお恥ずかしい話だが、ぼくは中学、そして大学時代の記憶から、本書が恋愛小説だとばかり思っていた。いや、恋愛小説には違いないのだが、より正確には「…

"The Red and the Black" 雑感(2)

ざっと40年ぶりに、今度は英訳で取りかかった本書だが、ぼくにしては珍しく大筋を憶えていた。主人公はジュリアン・ソレルという美青年で、彼はまずレナール夫人という美しい女性に恋をする。次に、貴族の娘でこれまた美女のマチルドと恋仲になる。それから…

"The Red and the Black" 雑感(1)

このところずっと、夏に読んだ "Klingsor's Last Summer" のおさらいをしていたが、じつはその一方、Stendhal の "The Red and the Black" をボチボチ読んでいた。ご存じ世界十大小説のひとつに数えられる名作中の名作である。 これは、ぼくが英語で読みレビ…

Hermann Hesse の “Klingsor's Last Summer”

実際に読んだのは去る8月だが、その後、メモを頼りに拾い読みした結果、なんとかレビューらしきものが書けそうな気がしてきた。がんばれや!(郷里の宇和島弁) ※ぼくが読んだペイパーバック版は表紙をアップできなかったので、別の版のものを掲示した。た…

"Klingsor's Last Summer" 雑感(19)

死期の迫っていること気づいた人間が死を恐れ、死を忘れようとして陽気にふるまい、何かに熱中する。考えてみれば当然の話である。が、本編を初めて読んだ当時、中1坊主だったぼくは、きっと思いもよらなかったのではないか。ただなんとなく、「年を取って…

"Klingsor's Last Summer" 雑感(18)

これもすっかり失念していたことだが Klingsor は画家で、42歳の夏、訪れたイタリアの風光明媚な田舎町で精力的に絵を描きつづける。かたわら、複数の女性をふくむ友人たちと旧交を温め、やがて美しい娘を見そめる。……ざっとこんなものかな、『クリングソル…

"Klingsor's Last Summer" 雑感(17)

表題作を読みたくて取りかかった本書だが、夏休みのメモを頼りに改めて拾い読みしてみると、意外なことに、文学的に深いテーマが汲みとれるのは巻頭の短編 "A Child's Heart" と、次の中編 "Klein and Wagner"。それにくらべ、お目当ての『クリングソル』は…

"Klingsor's Last Summer" 雑感(16)

さて、いよいよ表題作である。雑感(1)でもふれたように、この邦訳を読んだのはなんと半世紀前、中1の時だった。今は亡き父が買ってくれた世界文学全集の第1回配本がたしかヘッセ集で、ぼくは当時からへそ曲がりだったせいか、有名な『車輪の下』や『デ…