ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2008-12-01から1ヶ月間の記事一覧

"Moby-Dick" と「闇の力」(18)

前回ぼくは、ピークォド号が沈んだあとに訪れる「不思議な沈黙」は、戦いの終了によって突然、「闇の力」から解放されたときの虚脱感の象徴だと書いたが、じつは、あの沈黙にはそういう個人的な感覚を超えた意味も含まれていると思う。それを裏づけるのが「…

"Netherland" 雑感(2)

読書にほとんど時間が割けず、相変わらず先へなかなか進まないが、"Netherland" は随所にあれこれ考えさせる文言があって面白い。その点、Patrick Gale の "Notes from an Exhibition" とは対照的だ。あちらは当初、構成がしゃれているのと、謎めいた主人公…

"Netherland" 雑感(1)

今年の話題作のひとつ、Joseph O'Neill の "Netherland" を仕事の合間にボチボチ読んでいるのだが、今のところ、とてもいい作品だと思う。早く読みおえたいのだが、諸般の事情でなかなか読書に時間が割けないのが残念。 本書で気に入っている点は、まず、9.1…

"Moby-Dick" と「闇の力」(17)

戦いは終わった。エイハブは、イシュメールを除くピークォド号の乗組員もろとも海の藻屑と消えてしまう。だが、白鯨を根元的な悪の存在と見なすエイハブの死は、理想主義の敗北を意味しない。何度も引用するように、エイハブは「おれの至上の偉大さは、おれ…

コスタ賞の行方

いささか旧聞に属するが、コスタ賞のショートリストが発表されている。http://www.costabookawards.co.uk/awards/thisyearshortlist2008.aspx ・優秀長編賞 "The Secret Scripture" Sebastian Barry, "The Other Hand" Chris Cleave, "A Partisan's Daughter…

ベスト10の季節(3)

ブログをサボっているあいだに、タイム誌http://www.time.com/time/specials/2008/top10/article/0,30583,1855948_1864238,00.htmlとガーディアン紙http://www.guardian.co.uk/books/2008/dec/13/best-fictionが今年の優秀作を発表した。タイム誌のベスト10…

Patrick Gale の "Notes from an Exhibition"(2)

ときどき覗いているアマゾンUKの Fiction 部門のベストセラー・リストを先ほど見たら、先週読みおえた "Notes from an Exhibition" は75位。いつから載っているかは憶えていないが、相当前からであることは確かだ。たぶん、Richard & Judy Book Club が2008…

"Moby-Dick" と「闇の力」(16)

白鯨を根元的な悪の存在と見なし、白鯨を仕留めることでこの世に絶対的正義を確立しようとするエイハブが一瞬、巨大な鯨という壁「の背後には何もないと思う」。白鯨をその白さゆえに、崇高な理想主義的ヴィジョンの象徴と見なすイシュメールも、同じくその…

Patrick Gale の "Notes from an Exhibition"(1)

よんどころない事情が重なり、1週間近くブログをサボってしまった。何より恩師が亡くなられたのがショックで、なかなか駄文を綴る気持ちになれなかった。以下は、何日か前に読了した "Notes from an Exhibition" のレビュー。Notes from an Exhibition作者:…

Patrick Gale の中間報告(2)

ようやく仕事の目途がついたので、中断していた Patrick Gale の "Notes from an Exhibition" を昨日からまたボチボチ読みはじめた。ぼくはいつも土曜出勤だが、日曜には「自宅残業」しなければ読了できるかもしれない。 パターンが見えたところで少し飽きて…

ベスト10の季節(2)

いよいよニューヨーク・タイムズ紙が今年のベスト10を発表した。http://www.nytimes.com/2008/12/14/books/review/10Best-t.html?_r=1&ref=review fiction 部門の5冊は次の通り。 "Dangerous Laughter" Steven Millhauser, "A Mercy" Toni Morrison, "Nethe…

Alan Sillitoe の "The Loneliness of the Long Distance Runner"

もっか猫の手も借りたいほど忙しく、中断している長編の代わりにせめて短編集でも読みたいところだが、ぼくは物覚えが悪く、最初のほうに読んだ短編がどんな作品だったか忘れてしまうことが多い。それゆえ、短編集のいい読者とは言えないが、シリトーの『長…

"Moby-Dick" と「闇の力」(15)

この世で絶対的正義を追求しても、得られるものは相対的正義でしかなく、しかもおびただしい血が流れる。そんなものが果たして正義なのか、善なのか? いやそもそも、絶対的正義なるものは存在するのだろうか。そんな疑念にエイハブが駆られているように思え…

Lily Tuck の "The News from Paraguay"

ご存じ Michiko Kakutani が発表した今年のベスト10を見たら、Joseph O'Neill の "Netherland" も選んでいた。http://www.nytimes.com/ref/books/2008holidayKakutani2.html?ref=arts 早く読みたいところだが、超多忙のため、"Notes from an Exhibition" を…