ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

ブッカー賞

Benjamin Wood の “Seascraper”(1)

先日、今年のブッカー賞一次候補作、Benjamin Wood の "Seascraper"(2025)を読了。Benjamin Wood(1981 - )はイギリスの作家で、2012年のコスタ賞新人賞部門最終候補作 "The Bellwether Revivals"(未読)でデビュー。表題作は第5作である。諸般の事情で…

Yael van der Wouden の “The Safekeep”(2)

ああ、やっぱり! 日本の場外馬券場でブッカー賞レースの馬券を買ったせいか、"Universality" が到着予定日から一週間すぎてもまだ届かない。"Endling" だって発送通知が遅すぎる。 これが本場の場内発売所だと、値段はうんと張るものの、早く確実に届くメリ…

Katie Kitamura の “Audition”(1)

きのう、今年のブッカー賞一次候補作、Katie Kitamura の "Audition"(2025)を読了。Katie Kitamura(1979 - )はアメリカ生まれの日系作家で、本書は彼女の長編第5作。さっそくレビューを書いておこう。 Audition: A Novel 作者:Kitamura, Katie Riverhea…

2025年ブッカー賞ロングリスト発表

ロンドン時間で昨日29日、今年のブッカー賞ロングリストが発表された。現地ファンによる下馬評はつぎのとおり(集計方法のちがいで、2~7位は移動あり)。 1. Endling by Maria Reva 2. The Land in Winter by Andrew Miller 3. Flashlight by Susan Choi 4.…

Yael van der Wouden の “The Safekeep”(1)

今年の女性小説賞受賞作、Yael van der Wouden の "The Safekeep"(2024)を読了。Yael Van Der Wouden(1987 - )はオランダの作家で、本書は彼女の処女作。 また本書は昨年のブッカー賞最終候補作でもあったが、年末に同賞関連のランキングを公表したさい…

Elizabeth Taylor の “Mrs Palfrey at the Claremont”(4)

ブッカー賞ロングリストの発表日が近づいてきた(今月29日)。先月初め以来、いろいろな現地ファンがいろいろな予想リストを公表。いまではYouTubeでも情報が得られるようになっている。 例年、そうした情報を集計するファンもいて助かるのだけど、それはま…

Elizabeth Taylor の “Mrs Palfrey at the Claremont”(3)

今週はめずらしく三回も外出。ジム二回のほか、『ミッション:インポッシブル / ファイナル・レコニング』を見にいった。こんども「そんなん、ありえへんやろ」というアクション・シーンの連続で、トム・クルーズの生還シーンなど吹きだしそうになったけど、…

Elizabeth Taylor の “Mrs Palfrey at the Claremont”(2)

"Bleak House" を読みきった日の夜、寝床のなかで阿川弘之の『山本五十六』も読みおえた。こちらはほぼ五ヵ月がかり。去る二月、五十六が開戦時に乗艦していた戦艦長門のプラモを製作したのがきっかけで読みはじめた。 これで阿川の提督三部作をぜんぶ読んだ…

Elizabeth Taylor の “Mrs Palfrey at the Claremont”(1)

1971年のブッカー賞最終候補作、Elizabeth Taylor の "Mrs Palfrey at the Claremont"(1971)を読了。この Elizabeth Taylor(1912 - 1975)はイギリスの女流作家で、同名の女優とは別人。本書は2005年、ダン・アイアランド監督により映画化され、日本でも2…

Rachel Kushner の “Creation Lake”(3)

去年今年貫く棒の如きもの ご存じ虚子の名句だけど、ぼくも去年の宿題をひとつのこしたまま年が明けてしまった。うん? 句の意味とはちと、ちがいますな。 さて前回(2)では、カルト集団の教祖 Bruno の哲学的瞑想が退屈とクサした表題作だが、あと半分、…

Rachel Kushner の “Creation Lake”(2)

長い、長すぎる。 400ページちょっとの本だから超大作ではないし、現代の作品ではむしろふつうの分量といえるけど、それでも長い。 そう感じるわけは、ひとえに、本書の主な舞台、南仏の田舎に居住するカルト集団的なコミューンの教祖、Bruno Lacombe の瞑想…

Samantha Harvey の “Orbital”(3)

本書で描かれる国際宇宙ステーションには、日本人宇宙飛行士 Chie も乗りこんでいる。 そのせいかステーションが日本上空を通過する場面もあり、ぼくたちはニヤリとさせられるはず。... Asia slides away to the starboard side. Shikoku and Kyushu pass be…

Samantha Harvey の “Orbital”(2)

えっ、いったいどうなっとんねん!? 本書が今年のブッカー賞を受賞と知ったときは、ほんとうに驚いた。 novella といってもいいほどの薄い本で、取りかかる前は楽勝と思ったものだけど、いざ読みはじめると、舞台の国際宇宙ステーションが地球を三周したあた…

Anne Michaels の “Held”(3)

肉親の死、家族との別れ。それは文学史上、古典古代の昔から語り継がれてきた永遠のテーマのひとつであり、実人生でも、いつかはだれでも経験する万人共通のテーマである。 ゆえにこれを扱った作品なら必ず読者の共感を呼びそうなものだが、やはり出来不出来…

Anne Michaels の “Held”(2)

まず冒頭から。 We know life is finite. Why should we believe death lasts forever? * The shadow of a bird moved across the hill; he could not see the bird. * Certain thoughts comforted him:/ Desire permeates everything; nothing human can be…

Charlotte Wood の “Stone Yard Devotional”(4)

先日 "Creation Lake" をやっと読みおえ、毎年恒例のブッカー賞ランキングがほぼ完成。あとは総括のコメントを若干補足するだけとなった。これからしばらく、その下書きのような記事がつづきそうだ。 まずくりかえしになるが、ぼくの色眼鏡によると、今年は…

Rachel Kushner の “Creation Lake”(1)

数日前、今年のブッカー賞最終候補作、Rachel Kushner の "Creation Lake"(2024)を読了。これは今年の全米図書賞一次候補作でもあった。 Kushner(1968 - )がブッカー賞ショートリストにノミネートされたのは、"The Mars Room"(2018 ☆☆☆★)以来二度目。…

Charlotte Wood の “Stone Yard Devotional”(3)

本書には前回(2)で挙げたとおり、美点がいくつもある。ぼくの評価も☆☆☆★★。双葉十三郎のことばをもじっていえば、「読んでおいていい作品」だ。 なかでもコロナ禍をいち早く採りあげ、あの状況の核心のひとつに迫ったことは、現代文学のひとつの生きのこ…

Charlotte Wood の “Stone Yard Devotional”(2)

前回の記事、お気づきでしょうが、要するに「今年のブッカー賞はすこぶる低調だった」、さらには「文学の水準が低下した」というだけで、その原因についてはなにもふれていない。 これから少しずつ、受賞作・候補作の落ち穂ひろいをしながら考えてみよう。(…

2024年ブッカー賞ぼくのランキング

この秋口から喘息、さらには腰痛に悩まされ、超絶不調。なにを読んでいても、ちょっと面白くないなと思っただけで小休止、あげくに大休止。おかげで例年と異なり、ブッカー賞の発表当日になっても私的ランキングを公開できなかった。(そうそう、去年は去年…

Samantha Harvey の “Orbital”(1)

チンタラ読んでいた Samantha Harvey の "Orbital"(2023)が今年のブッカー賞を受賞。しぶしぶペースを上げ、やっと読みおえた。さっそくレビューを書いておこう。 Orbital: Winner of the Booker Prize 2024 (English Edition) 作者:Harvey, Samantha Vint…

Anne Michaels の “Held”(1)

数日前、今年のブッカー賞最終候補作、Anne Michaels の "Held"(2023)を読了。Anne Michaels(1958 - )はカナダの詩人・小説家で、本書は小説第三作。第一作の "Fugitive Pieces"(1996 ☆☆☆★★★)は1997年のオレンジ賞(現女性小説賞)受賞作で、『儚い光…

Percival Everett の “James”(4)

この一週間、ぜんそくが再発し絶不調。発作が起きると眠れず、朝から一日ボーっとしている。 のこっていたテオフィリンを服用したところ、古すぎたのが災いしてか、コーヒーとの飲みあわせがよくなかったのか、気分がわるくなり、立ちくらみも。 おかげで読…

Charlotte Wood の “Stone Yard Devotional”(1)

きのう、今年のブッカー賞最終候補作、Charlotte Wood の "Stone Yard Devotional"(2023)を読了。Charlotte Wood(1965 - )はオーストラリアの作家で、デビュー作は "Pieces of a Girl" (1999 未読)。one of Australia's most original and provocative w…

Percival Everett の “James”(3)

あらためて "Nostromo"(1904)をボチボチ読んでいたが、みたび中断。きのう届いた "Stone Yard Devotional"(2023)に乗り換えた。いまチェックすると、ブッカー賞レースの3番から2番人気に浮上。 作者 Charlotte Wood のことはまったく知らなかった。Wik…

Percival Everett の “James”(2)

もっかブッカー賞レースの下馬評はこうなっている。1. James2. Orbital3. Stone Yard Devotional4. Held5. Creation Lake6. The Safekeep 表題作はロングリストの発表前から一番人気。その秘密は、ひとつには、これが『ハックルベリー・フィンの冒険外伝』だ…

Hisham Matar の “My Friends”(4)

ああ、残念! "My Friends"(☆☆☆★★)、ちょっと期待していたのにショートリストから漏れてしまった。 懸念材料はあった。(2)で述べたとおり、「一朝有事のさい、自由という理想に殉じて帰国すべきか、それとも移住先で確立した地位を守り、勝ち得た信頼に…

Percival Everett の “James”(1)

きのう、今年のブッカー賞候補作 Percival Everett の “James” (2024)を読了。Percival Everett(1956 - )は多作家で知られ、本書は長編24冊目。短編集も4冊上肢している。22冊目の長編 “The Trees”(2021 ☆☆☆★)は2022年のブッカー賞最終候補作だった。…

Hisham Matar の “My Friends”(3)

今回もまず、現地ファンの下馬評から。少し変化があり、本命 “James”、対抗 “My Friends” に固定。単穴は集計方法のちがいにより、“Creation Lake” か “Held”。 ぼくはいま “James” を読んでいるところだけど、たしかに “My Friends” といい勝負だ。どっちが…

Hisham Matar の “My Friends”(2)

さていま、あらためて現地ファンの下馬評をチェックしてみると、本書は Percival Everett の “James” と並んで相変わらず首位を併走。三位も Richard Powers で変わらない。 本来ならツマミ食いは禁物で、たとえハズレでも、なぜそれが凡作かと考えることで…