ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2015-10-01から1ヶ月間の記事一覧

"Klingsor's Last Summer" 雑感(15)

はてさて、いつになったら表題作にたどり着けるのやら。本ブログを再開した当初は、一気にお目当ての『クリングソル』をネタに雑談ができるものと思っていたが、なんのなんの。メモを頼りに拾い読みした "A Child's Heart" と "Klein and Wagner" がじつに内…

"Klingsor's Last Summer" 雑感(14)

初読のときは気がつかなかったが、目についた箇所を読み返してみると、たしかに巻頭の短編 "A Child's Heart" と次の中編 "Klein and Wagner" には共通点がある。まず、どちらも主人公は内省的な人物だ。そしてその内省、自己検証はもっぱら、自分の心中にあ…

"Klingsor's Last Summer" 雑感(13)

還暦もとうに過ぎると、運命というのはやっぱり本当にあるのかも、と思うことがある。「そう思えばそう思えるのが運命か」と、この夏、田舎の友人と話し合ったばかりだ。本との出会いしかり。 その夏休み、田舎で "Klingsor's Last Summer" を読もうと思った…

"Klingsor's Last Summer" 雑感(12)

本書はなにしろもう2ヵ月近く前に読んだので、所収2編めの "Klein and Wagner" についてもウロ憶えの箇所が多い。そこでメモを頼りに改めて拾い読みしながら拙文を書いている。 すると、例によって見落とした点が多いのにウンザリさせられるが、それでも K…

"Klingsor's Last Summer" 雑感(11)

本ブログを再開した初回にも書いたことだが、例によって不勉強のぼくには、ヘッセといえば『車輪の下』や『デーミアン』などで有名な青春小説作家、くらいの認識しかなかった。ところが、巻頭の短編 "A Child's Heart" に引きつづき、中編 "Klein and Wagner"…

"Klingsor's Last Summer" 雑感(10)

つい脱線してしまった。"Klein and Wagner" にまた話を戻そう。公金を横領した Klein はイタリアへの逃避行を続けるうち、二人の Wagner に思いを馳せながら内心の声に耳を傾け、自分が表向きは善良な市民でありながら、実際は「フォニー」であり、犯罪を犯…

"Klingsor's Last Summer" 雑感 (9)

なるほど確かに、"Klein and Wagner" とは簡にして要を得た題名である。いい加減に読んでいたときはべつに何とも思わなかったが、二人の Wagner について詳しく分析してみると、これ以外にはちょっと考えられないタイトルだ。 そこで遅まきながら気がついた…

"Klingsor's Last Summer" 雑感 (8)

というわけで、"Klein and Wagner" に出てくる大作曲家ワーグナーは、主人公の Klein にとって、自分を「フォニー」と規定する自己批判、自己嫌悪、みずからあばいた自己欺瞞の根拠のひとつだったことになる。 おもしろいことに、それはもうひとりの Wagner …

"Klingsor's Last Summer" 雑感 (7)

肝心の表題作の話になかなかたどり着かない。その前にまだ中編 "Klein and Wagner" が残っている。巻頭の短編と同じくこれも初読だったが、『クラインとワーグナー』という題名には何となく聞きおぼえがある。邦訳があるかもしれませんな。 主人公の Klein …

"Klingsor's Last Summer" 雑感 (6)

巻頭の短編 "A Child's Heart" に関連して、もうひとつだけ「バリザンボーを浴びそうな発言」をしておこう。 今まで述べてきたことをまとめると、主人公の11歳の少年はまず、成長とともに自分の心の中に潜む悪を自覚している。'....how could I have become …

"Klingsor's Last Summer" 雑感 (5)

昨日はうっかり、「善から悪が生まれる」のが「見方によっては人間にとって最大の不幸」などと知ったかぶりで書いてしまったが、もちろんぼく自身、この真実を身にしみて実感しているわけではない。"A Child's Heart" の主人公の言葉を借りて言えば、せいぜ…

"Klingsor's Last Summer" 雑感 (4)

表題作を読もうと思って取りかかった本書だが、じつは巻頭の短編 "A Child's Heart" の中から前回引用した箇所が、知的な昂奮をいちばん覚えるところかもしれない。 まず表現から詳しく見てみよう。'Perhaps for the first time in my life' とある以上、こ…