ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

2016-05-01から1ヶ月間の記事一覧

Lauren Groff の “Fates and Furies” (1)

本書は周知のとおり、昨年の全米図書賞と今年の全米批評家協会賞(対象はともに2015年の作品)の最終候補作である。さて、ひと晩寝かせたところでレビューを書けるかどうか。Fates and Furies作者:Groff, LaurenRiverhead BooksAmazon[☆☆☆★★★] 泣ける小説だ…

"Fates and Furies" 雑感 (2)

これは、つらい小説だ。読めば読むほど、そう思う。 いや、そう思った。じつはもう読みおえている。が、もうひと晩「寝かせて」からレビューらしきものを書きたい。きょうはその下準備だけしておこう。 冒頭は甘いラヴ・ロマンスのようだ。若い男女がビーチ…

"Fates and Furies" 雑感 (1)

恋愛にはじつは、前回までざっと書いてきたこと以外にも重大な問題がある。D. H. Lawrence の "Apocalypse" の邦題(福田恆存訳)を借用すると、「現代人は愛しうるか」という問題である。 が、これについて詳しく論じる時間はない。その代わり、Lawrence の…

Elena Ferrante の “The Story of the Lost Child” (4)

男女の仲を引き裂く障害が多ければ多いほど、大きければ大きいほど、それだけメロドラマはおもしろくなる。前回の要約だが、当たり前の話ですな。 では本書の場合、どんな障害があるのだろうか。「作者と同名の女流作家エレナがダブル不倫。相手の男はエレナ…

Elena Ferrante の “The Story of the Lost Child” (3)

きのうはうっかり、「偉大な人間の恋愛がすぐれたメロドラマである」などと舌足らずな珍説を述べてしまった。少しだけ補足しよう。「主人公が偉大な人間であればあるほど偉大な小説になる。メロドラマもまたしかり」。これでどうでしょうか。 すぐれた小説の…

Elena Ferrante の “The Story of the Lost Child” (2)

本書は(ぼくにとって)なぜつまらないのか。われながら、ずいぶんヘソ曲がりな疑問だと思う。なにしろ、あの Michiko Kakutani が my favorite books of 2015 に選んだ作品だ。ぼくの疑問は独りよがりのイチャモンにすぎない可能性が大きい。 たとえば、「…

Viet Thanh Nguyen の “The Sympathizer” (4)

きょうは前回に引き続き、Elena Ferrante の "The Story of the Lost Child" について駄文を書こうと思っていたが、朝目が覚めたとき、なぜか Viet Thanh Nguyen の "The Sympathizer" のことを思い出した。そういえば、あのヴェトナム戦争をめぐる小説にも…

Elena Ferrante の “The Story of the Lost Child” (1)

きのう Elena Ferrante の "The Story of the Lost Child" を読了。一気にレビューを書いてもよかったのだが、ひと晩寝かせることにした。雑感でも紹介したとおり、ニューヨーク・タイムズ紙の10 Best Books of 2015の一冊であり、同紙の書評家 Michiko Kaku…

"The Story of the Lost Child" 雑感 (4)

全体の4分の3あたりで大事件発生。タイトルと関係がある、と書くとネタばらしになりそうだが、「安心してください」。たぶん大丈夫だろう。 この事件が起こるまでは、いや起こってからも、本書は本質的にメロドラマである。それにファミリー・サーガという…

"The Story of the Lost Child" 雑感 (3)

きのうも紹介したように、これはニューヨーク・タイムズ紙の書評家、Michiko Kakutani が選んだ My Favorite Books of 2015の一冊である。さぞ、すごい小説なんだろうな。 と思いきや、どうもぼくにはピンと来ない。そこで、裏表紙に並んでいる短評を斜め読…

"The Story of the Lost Child" 雑感 (2)

というわけで、久しぶりにジャケ買いをした本書だったが……。 まず、「人は見かけによる」というのは洋書の場合、かなり正しいことが今回も実証された。(和書は最近ほとんど買ったことがないので不明)。いかにも〈文芸エンタメ系〉らしい雰囲気のカバーどお…

"The Story of the Lost Child" 雑感 (1)

Elena Ferrante の "The Story of the Lost Child" を読んでいる。これはご存じのとおり、昨年、ニューヨーク・タイムズ紙やタイム誌、エコノミスト誌、パブリシャーズ・ウイーク誌などで年間ベストのひとつに選ばれた話題作である。 本書を読もうと思ったき…

Viet Thanh Nguyen の “The Sympathizer” (3)

本書を読んでいて、ああやっぱりね、と思ったことがある。アメリカの保守派が考えているヴェトナム戦争の敗因である。'.... your soldiers fought well and bravely, and would have prevailed if only Congress had remained as steadfast in their support…

Viet Thanh Nguyen の “The Sympathizer” (2)

前にも書いたとおり、これは P Prize. com の予想では、今年のピューリッツァー賞の泡沫候補に近かった。が、ふたをあければ逆転受賞。下馬評にのぼったほかの作品や、最終候補作の "Get in Troubles: Stories" (未読) などと読みくらべたわけではないが、本…

Viet Thanh Nguyen の“The Sympathizer” (1)

ゴールデンウィーク中、仕事のあいまに読んでいた今年のピューリツァー賞受賞作、Viet Thanh Nguyen の "The Sympathizer" をやっと読了。さっそくレビューを書いておこう。The Sympathizer: A Novel (Pulitzer Prize for Fiction)作者:Nguyen, Viet ThanhGr…

“The Sympathizer” 雑感(5)

これはすごい小説だ! 読めば読むほどハマってしまう。 とはいえ、本書は一種のスパイ小説(いま読んでいるところは冒険小説)であり、ネタを割りすぎないようにしないといけない。きょうは当たり障りのないことだけ書いておこう。 本書に関連する昔の小説や…

“The Sympathizer” 雑感(4)

さて、ようやくほんとうに雑談開始。まずタイトルだが、これは 'Viet Cong sympathizer'(p.99)、北ヴェトナムのスパイという意である。そのスパイがなぜか今は一室に監禁され、どこかの国(新しいヴェトナム?)の Commandant 相手に昔の活動内容を告白し…

“The Sympathizer” 雑感(3)

昔のレビューでお茶を濁しているうちに、アメリカ人の作家や映画監督のヴェトナム戦争観に一定のパターンがあることが見えてきた。そのパターンは大別して二つある。 まず、戦争の狂気や不条理、残虐性などに焦点を当てたもの。これは特に映画の場合に顕著で…

“The Sympathizer” 雑感(2)

今まで書いてきたお粗末なレビューを検索したところ、部分的にヴェトナム戦争を採りあげた作品が5冊あった。発表順に、Philip Roth の "The Human Stain" (2001)[☆☆☆★]、Jeffrey Lewis の "Meritocracy: A Love Story" (2004)[☆☆☆★★★]、John Irving の "Las…

“The Sympathizer” 雑感(1)

Viet Thanh Nguyen の "The Sympathizer" を読みはじめた。入手したのは何ヵ月も前で、当分読むつもりはなかったのだが、P Prize. Com の予想に反して今年のピューリッツァー賞を受賞。 あわててパラパラめくってみたら、なんとヴェトナム戦争の話ではないか…

Valeria Luiselli の “The Story of My Teeth” (3)

ぼくはふつう序文や「あとがき」のたぐいを読まない。あくまでも作品本体が鑑賞の対象であって、それ以外は補足情報。鑑賞の助けとして必要を感じたときだけ読めばいい、と割り切っている。 今回はその必要を感じた。フィクション部分だけでは隔靴掻痒。作者…