ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“When Will There Be Good News?” 雑感(1)

 去年の話題作のひとつ、Kate Atkinson の "When Will There Be Good News?" を読みはじめた。ガーディアン紙やタイム誌、パブリシャーズ・ウィークリー誌、ニューヨーク・タイムズ紙の Janet Maslin などが年間優秀作品に選んでいる本だ。
 Kate Atkinson は95年に "Behind the Scenes at the Museum" でウィットブレッド賞を受賞しているが、ぼくは未読。つまりこれは、ぼくにとっては知らない作家の面白そうな本ということで、読書条件としては完璧だ。世評はさておき、面白本の予備知識は少なければ少ないほどいい。
 というわけで、批評や紹介記事をいっさい読まずに取りかかったのだが、途中で遅まきながら気がついた。これは純文学ではなく、どうやらミステリに属するものだ。が、娯楽中心のミステリとも言えず、いわばクロスオーバー的な作品である。正確には今のところ、クライム・ノヴェルだろうか。
 あわてて巻頭の紹介記事や、年間優秀作品に選ばれたときの記事をちらっと眺めると、ケイト・アトキンソンは crime writer に転向し、これは本書の登場人物の一人、Jackson Brodie を主人公とする thriller の3作目だという。ぼくは Brodie が初めて出てきたとき、こいつが犯人かと思ったくらいだからお話にならないが、それにしても「スリラー」とはねえ…。たしかにスリラーには違いないけれど、それ以外の要素もけっこう強い。
 その要素を分析する前にまず、これは故殿山泰司風に言えば、クイクイ読める本だ。英語が易しめということもあるが、それ以上に物語の流れが非常にいい。ある人物を最初は代名詞だけで呼び、やがて人名をさりげなく紹介するといった、小さなサスペンスの盛り上げが巧妙だし、人物関係が霧の中から次第に見えてくる展開であることも言うまでもない。そのテクニックのうまさに、思わず「役者やのう」と口走ったくらいだ。
 こうまでクイクイ読める本だと、ジャンルなんてどうでもいいし、まして構成要素を分析するのは愚の骨頂かもしれないが、ぼくは、面白い本がなぜ面白いかを考えることを面白く思う人間なので、ついこんな駄文を書いてしまう。…もっともっと書こうと思ったが、先が気になるので今日はこの辺で。