ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Dangerous Laughter" 雑感(1)

 先日のジュンパ・ラヒリもそうだが、今年は珍しく短編集を読むことが多い。といっても、今読んでいる Steven Millhauser の "Dangerous Laughter" で3冊目だが、06〜08年は皆無だったので多く感じるわけだ。で、ミルハウザーだが、彼の作品を読むのはなんと、この短編集でたったの4冊目。あなた、それでも英米文学ファンなの?とさっそく突っこまれそうな気がする。
 閑話休題。今まで読んだ短編のざっとした感想を述べると、第1話 "Cat 'n' Mouse" はシュールな「トムとジェリー」といったところ。深読みかもしれないが、人間存在の意義の有無がテーマなのでは?
 第2話 "The Disappearance of Elaine Coleman" は、不可解な状況で消失した女性の話。ぼくは密室物が大好きなので、純文学について行けなくなったら昔に戻ろうと、ディクスン・カーの名作など原書をばっちり集めているが、これはミステリではない。やはり存在の意義、あるいは人間関係の大切さがテーマと思われる。でもこれ、どこかで読んだか映画で見たような話じゃないかな。うちの娘に話したら、よくあるパターンとホザいていた。
 第3話 "The Room in the Attic" は「闇の中の少女」と題することもできる。高校生の友人の妹が自閉症で、主人公は何度も彼女の部屋を訪れるが、声を聞いたり身体がふれたりするものの、部屋はいつも真っ暗闇で姿は見えない。"The Barnum Museum" ほどではないが異次元世界のおもむきもあり、いかにもミルハウザーらしい作品。これも存在の意味を問うているような気がする。
 第4話は本書の題名と同じ "Dangerous Laughter"。高校生たちのあいだで、どれだけ長く、大声で、腹の底から笑えるかという「お笑い遊び」が流行、やがてそれが危険な方向へ走りだす。第2話から 'Vanishing Acts' という章題でくくられているように、ほかの話との関連性はあるが、存在の意味がテーマかどうかはぼくには不明。
 第5話 "History of a Disturbance" は哲学的な色彩が強く、言葉と言葉の指す実体との関係をフィクション化したものと言える。まさしく存在の核心に迫った作品。