ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Man Gone Down" 雑感(2)

 このところどうも気分がすぐれず、活字からいっさい離れた生活を送っていたが、今日になってやっと本書に再び取りかかった。
 中断したのは第1部の後半だが、このくだりは主人公の意識の流れというか内省や回想が続き、ストーリーはほとんど進行しないので好みの分かれるところだと思う。ニューヨークに住む中年の黒人が無一文となり、妻子と別居して友人の家に転がりこむ。要はそれだけの話なのだが、男は家族や友人、現在と過去のいろいろな出来事に思いをめぐらせる。そこには脈絡があるような、ないような…。
 こういう心理小説…じゃないな、「内省小説」の序盤はだいたいこんなもので、物語の輪郭を少しずつ明らかにするという小説の技法上、その輪郭が今のところピンぼけなのは無理もない。ここでぼくのように中断すると印象がさらにボケてくる。
 今日は第2部をちょっとだけ読み進んだが、このあたり、ストーリー展開は本書としては快調。男は詩と音楽の才能に恵まれ、大学講師の経験もあるインテリだが定職にありつけず、日雇い労働者としてビルの解体作業に従事する。その模様がかなり即物的に描かれるが、それがかえって男の切羽詰まった心理を間接的に伝えていて面白い。
 テーマも少し見えてきたような気がする。「社会的実験として人生を生きる」という言葉が何度か出てくるが、この「社会的実験」には、黒人が白人社会の中で生きることも含まれる。男は白人の妻と結婚したことで異なる生活環境に置かれ、いわば異邦人意識を味わっているからだ。が、この疎外感はどうやら、第1部の内省によれば幼い時期からあったものらしい。これが前回述べた「存在の不安」、「存在理由の追及」とかかわっているのかもしれない。