Paul Auster の作品を読んだのは本当に久しぶりで、"The New York Trilogy" を3冊と数えるとこれは6冊目だから、あまり熱心な読者とは言えない。べつに興味がないわけではないが、ぼくは悪しき性分で、おととい発表された今年のギラー賞(Scotiabank Giller Prize)受賞作、 Linden MacIntyre の "The Bishop's Man" のように、知らない作家の知らない本のほうにすぐ目移りしてしまう。(カワイコちゃんとおんなじだ!)
- 作者: Linden MacIntyre
- 出版社/メーカー: Random House Canada
- 発売日: 2009/07/28
- メディア: ハードカバー
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だからこの本は何番煎じなのかと思いながら読んでいると、第2部から目が離せなくなった。たまたま先週読んだ John Irving の新作、"Last Night in Twisted River" にも「現実とフィクションの混淆」が出てきたが、あちらの「混淆」は「起伏に富んだ展開にしたい工夫のひとつに過ぎ」ない。けれども、本書の「フィクション中フィクション」は、「通常のリアリズムでは描ききれない人間の側面を提示しようという」ものかどうかはさておき、少なくとも、「1人称の手紙、2人称の回想、3人称の客観描写と変化しながら、その語りの構造がストーリーと絶妙にマッチしている。しかも何より、激しい愛の嵐や苦悩、正義感など、青春の叫びが聞こえてくる点がすばらしい」。
昨日のレビューでもふれた箇所をすべて引用しておこう。....their friendship must have opened up something in her that altered her perception of herself, that thrust her for the first time into a direct confrontation with the depths of her own heart.(p.263) これはイニシエイション、そして青春小説の見事な要約である。この言葉を頭におきながら本書のエピソードをふりかえると、年とともに涙もろくなっているぼくはグッときてしまう。ぼくもあの頃はそうだった…。