ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

"Lark & Termite" 雑感(1)

 職場が年度末の「農繁期」に入り、なかなか思うように進まないが、今週初めに読んだ Bonnie Jo Campbell の "American Salvage" と同じく去年の全米図書賞の最終候補作で、やはり同じく今度は全米批評家(書評家)協会賞にノミネートされている Jayne Anne Phillips の "Lark & Termite" に取りかかった。今まで読んだかぎり、秀作であることはたしかだが、全米図書賞を Colum McCann の "Let the Great World Spin" にさらわれたのはむべなるかな。批評家協会賞にしても、ブッカー賞を取った "Wolf Hall" と較べると分が悪いと思う。
 主な舞台は2つあり、朝鮮戦争まっただ中の韓国と、その約10年後、ウェスト・ヴァージニアの田舎町。身重の妻を残して従軍したアメリカ兵が二人の出会いをはじめ、志願してから戦争にいたるまでの経緯、激化する戦闘の模様などを語ったあと、一転して若い娘に視点が変わり、言葉も行動も不自由な障害者の弟、二人が世話になっている伯母などが登場。さらにその伯母、弟へと視点が移る。
 以上がいわば第1クールで、ここまではとても面白かった。10年の時を隔てた物語のつながり、人物関係などが次第に明らかにされる展開で、文体はとにかくパワフルそのもの。パチパチと電気が走るような迫力があり、切れ味鋭い感覚に満ちている。冒頭に引用されたフォークナーの『響きと怒り』をもじり、'Throbs with sound and fury' と評した記事が裏表紙に載っているが、まったくそのとおりだ。
 内容もすばらしい。妻を思うアメリカ兵、弟を思う姉、その二人の子供を思う伯母のそれぞれの愛情がストレートに胸を打つ。とりわけ、具体的な関係がわかればわかるほど泣ける。(読めばすぐにわかる関係だし、裏表紙にも書かれているのでべつに隠さなくてもいいのだが、今日のところはいちおう伏せておこう)。
 しかしながら、第2クールが始まったとたん、カクっと読むスピードが落ちてしまった。ふたたびアメリカ兵に視点が戻り、相変わらず熱気に満ちた文体でテンポよく物語が進み、ドラマティックな戦闘場面さえあるのだが、生意気なことを言うと、先が見えてしまったのだ。今日は帰りの電車の中で姉の話その2を読みだしたが、読めば読むほど、ああ、やっぱりね、と思ってしまう。というわけで、今のところ、冒頭に書いたような評価にならざるをえない。あとはずばり、どれだけ想定外の展開があるかでしょう。