ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Bonnie Jo Campbell の "American Salvage"(2)

 どの物語でも事件や事故、ときには犯罪など必ずショッキングな出来事が起こる短編集だが、ぼくはこれを読みながら、ああ、なるほどそうだな、と最初から思ったことがある。大学入試の不合格でも肉親の死でもいいが、とにかくとても悲しい目に遭ったとき、人の心はまずショックを受けたあと、次にまわりの細部へと向かう、ということだ。
 たとえば一昨年の暮れ、恩師が亡くなられたときもそうで、火葬場へ向かうマイクロバスの中から見かけた道ばたの白い花がいまだに忘れられない。ネタばらしは避けたいので詳細は省くが、本書にはそんな「ディテールのもつ悲しさ、つらさ」がぎっしり詰まっている。
 そう思いながら読んでいるうちに、昨日のレビューでもふれた表題作、"King Cole's American Salvage" へとたどり着いた。これでタイトルの意味はわかったが、しかしこれ、単なるスクラップ業者の店名にとどまらず、ひょっとしたら「現代のアメリカがおちいっている状況」の打開、少なくともその方向を指しているのかもしれないぞ、とひらめいた。9.11テロ事件、アフガン戦争、イラク戦争サブプライム・ローンの破綻…ますます混迷の度を深めているかのような「現代のアメリカ全体の断面を描きだし」ながら、最後に「かすかな希望の光」を見せる物語。
 深読みかもしれないけれど、そう思ってふりかえると、貧困といいドラッグといい、本書のほかの共通要素もたしかに「断面」の一部である。つまり、これはいかにもアメリカ的な小説であり、その意味では出来ばえともども、全米図書賞の最終候補作に選ばれたのも大いにうなずける話だ。同賞を受賞した Colum McCann の "Let the Great World Spin" と較べるとやや小粒だが、格段の差があるわけではない。さて、今度は全米批評家(書評家)協会賞にノミネート。"Wolf Hall" に続いて候補作を読むのは2作目だが、穴馬として大いに期待していいのではないか。