ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Alone in Berlin” 雑感(6)

 本書のどこまで実話で、どこからフィクションなのかは定かでないが、ぼくの直感ではやはり相当部分がフィクションだと思う。第二次大戦中、ベルリンで実際にあったらしいヒトラーへの抵抗運動を描いたもの、という骨子から、ある一定のストーリーが連想され、その結末もおおよそ見当がつく。事実、その予想を終始一貫、大幅に上回る内容ではない。終盤に入っても、ああやっぱりね、という定石どおりの展開が続いている。
 だが面白い。むろん、抵抗運動を始めた夫婦の運命という本筋も読みどころなのだが、それと同じくらい、いやむしろそれ以上に本書は副筋がしっかりしている。主人公を取り巻く脇役陣の存在感が圧倒的で、たしかに予想の範囲内という意味ではステロタイプに近いものの、それでも細かい性格描写や生き生きとしたセリフのおかげで、どの脇役も映画でも観るように目に焼きついてくる。その彼らと主人公の絡みあい、あるいは脇役同士の衝突など、これはもうフィクションとしか言いようがないだろう。
 巻末にある 'The True Story Behind Alone in Berlin' という記事を読めば載っていることかもしれないが(ぼくは未読)、作者は本書の執筆にあたり、実際にあった抵抗運動を取材する過程で人物関係もおおよそ調べあげているはずだ。それゆえ脇役陣の中にも実在の人物がいる可能性もあるが、その人物がどう動き、どんなことをしゃべったか、という肉付けをしていくのが作家の仕事だろう。この点、Hans Fallada の人物造形はいかにもフィクションらしく、かつ堅実である。
 …やっと終幕に取りかかることになったが、昭和の日と同じく明日も休日出勤。はて、読了はいつになるのやら。