ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Alone in Berlin” 雑感(5)

 会社によっては明日からいよいよ連休だが、ぼくの場合は来週火曜から。それまで出勤しないといけない。…のはずが、今日は体調思わしくなくダウン。寝床でボンヤリしながら本書の続きを読んだ。
 もう粗筋を書けないところまで入りつつあるが、これは予想どおり「実話」らしい。ふと、巻末に 'The True Story Behind Alone in Berlin' という記事があるのを発見したからで、パラッとページをめくると人物や記録文書の写真なども載っている。ぼくは作品鑑賞のための予備知識を極力仕入れない主義なので、あわてて本を閉じてしまった。
 ただ、ぜんぶがぜんぶ実話ではないはずだ。ヒトラーの欺瞞を訴えた葉書をベルリンの市内各所にひそかに放置する、というささやかな抵抗運動があったのはおそらく事実にしても、あとは作者が相当に肉付けしたフィクションなのではないだろうか。
 というのも、抵抗運動の描写を本筋とすると、それが後半、「どんどん盛り上がる」のかと思ったら、その本筋を取り巻く副筋がまだまだ書きこまれている。しかもそれが意味のないダイグレッションではなく、本筋だけなら単調になるのを防ぐ効果があるうえに、文学作品としての厚みを本書にしっかりもたらしている。
 典型例が「ワル者同士の狐と狸の化かし合い」で、ゲシュタポの捜査官もふくめ、自分の保身と欲望しか頭にない小悪党たちがお互いに衝突する寸劇はじつに愉快。いよぉ、やってますねえ、いいですねえ、と声をかけたくなるほどで、これが映画なら一杯やりながら拍手喝采しているところだ。最初のほうで出てきた人物を後半になってもうまく使っている点など、やっぱり小説だなあと思う反面、これくらい作ってくれないと小説らしくないとも思う。なんとなく結末が見えてきたけど、さてどうなるでしょう。