ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Twin”雑感 (2)

 出張2日目。連日の猛暑でかなりバテてきたが、それでも何とか順調に読み進んでいる。
 「深い余韻の中に(本書の主人公) Helmer の思いがしみじみとこめられている」と昨日は書いたが、では彼は何を考えているのか。いつも理解を示してくれた亡き母親。頑固で横暴で、Helmer の弟の死後、彼にうむを言わさず農場の仕事を押しつけてきた父親。幼いころから一心同体のようだった双子の弟。その弟との仲を引き裂いてしまった弟のフィアンセ…
 ほかにも、自分に優しく接してくれた農場の雇い人など、要するに彼は、心に深く刻みこまれた相手のことを追想している。それはもちろん親子の愛や兄弟愛、友情の意味について考えることであり、同時にまた、自分は結局何をしてきたのか、どんな人間だったのかとふりかえることでもある。そういう回想と自己省察が静かな筆致で綴られていく。
 一方、Helmer の前に40年近い時を隔てて、弟のフィアンセだった女が現われる。おや、お定まりのラブロマンスかと思いきや、さにあらず。夫と死別したばかりの女は、引きこもりの息子を農場で雇ってくれないかと頼んでくる。…こちらはまあ、自己喪失の物語と言えるだろうが、ひるがえって、やむなく農業を継ぎ、今また父親の介護もせざるをえなくなった Helmer も、回想と省察を通じて自己喪失の思いに苦しんでいる。そんな二人の出会いから生まれるものは…
 ううむ、何だか粗筋の紹介ばかりになってしまったけれど、ネクラなぼくは、この Helmer とけっこう似たようなことを考えることが多い。すっかり身につまされてしまった。