ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“The Twin”雑感 (1)

 ほんとうは昨日に引き続き、"The Color of Lightning" の話、とりわけ「平和主義の限界」を取り上げるべきところだが、あいにく今日から出張。またもやケータイを使ってこれを書いている。それゆえ大問題にふれるのは家に帰ってからということにして、今日は今年の国際IMPACダブリン文学賞受賞作、オランダの作家 Gerbrand Bakker の "The Twin" について駄文を綴ってみたい。
 オランダの小説を英訳で読むのはこれが初めてだが、じつは以前から Helga Ruebsamen の "The Song and the Truth" がずっと積ん読のままになっている。いい機会だから、この夏はあちらも早く片付けたいものだ。そんな誘惑に駆られるのもダブリン文学賞の効用のひとつだろう。
 さて本書だが、この静寂に満ちた小説がぼくはとても気に入っている。舞台はオランダの小さな村の農場。さりげない客観描写や言葉の端々から主人公の立場と人物関係が次第に浮かびあがってくる。そのプロセスがとてもいいので、今ここで簡単にまとめるのをためらってしまうほどだ。
 最初は介護がテーマかと思った。農場の仕事にいそしみながら、年老いた寝たきりの父親の世話をしている独身男 Helmer が主人公で、母親はとうに他界。双子の弟がいたが、弟は若いころ、婚約者の運転する車に乗っていて事故に巻きこまれ死亡。以来、Helmer は学業をあきらめ、頑固で横暴な父親のもと、やむなく農業を手伝ってきた。その父親が今や寝たきりで…。ざっとそんな話が、秋から冬にかけた物寂しい風景の中、少しずつ静かに綴られていく。
 要するにこの小説を支配しているのは、静寂、孤独、寂寥、諦念だ…と思っていたら、定石ながら突然変化が訪れる。弟の婚約者だった女から、30年以上ぶりに連絡があったのだ。
 じつはもうその先まで読み進んでいるのだが、Helmer とその女との微妙な関係もふくめ、これはとにかく行間を楽しむ小説である。深い余韻の中に Helmer の思いがしみじみとこめられている。久しぶりに大人の小説を読んでいるなあ、という感じだ。