ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Both Ways Is the Only Way I Want It”雑感(1)

 このところ文芸エンタメ路線ばかり走ってきたので、久しぶりにマジメな本を読もうと改心、Maile Meloy の "Both Ways Is the Only Way I Want It" に取りかかった。昨年のニューヨーク・タイムズ紙選出年間ベスト5小説の1冊である。これならマジメ系に決まってるだろう!
 なぜ今ごろ去年の優秀作品かというと理由は簡単で、1年前はたしかまだハードカバーしか出ていなかったからだ。ぼくは基本的にペイパーバック・リーダーなので、ハードカバーはほとんど読まない。そんなアホな理由でパスし、いつのまにか忘れてしまった評判作がかなりある。本書はたまたま最近、ペイパーバック化されているのを知り、米アマゾンの評価も高いようなので入手した次第だ。
 読みはじめてわかったのだが、これは短編集。何かと忙しいこの時期には長編よりいいかもしれない。内容的には明らかに今までの文芸エンタメ路線とは異なる作風で、ねらいどおりマジメな本と言っていいだろう。  
 第1話はモンタナが舞台のローカル・ピース。孤独で内気、うぶな青年の淡い初恋物語だが、そんな公式化ではこぼれるものが多い。まずこれは文体がいい。ふと裏表紙を見ると、'Meloy's style is as fresh and brisk as an ocean breeze.' という Sunday Times の評が載っている。なるほど言い得て妙、さすがはプロですなあ。ぼく流のヘタクソな説明をくわえると、青年の身の上にしても、女との出会いと別れにしても、一筆書きと言っていいほど淡々とした筆致で描かれる。その中で青年の心がさざ波のように騒ぎ、それが衝動となって青年を突発的な行動へと駆り立てる。純情、欲求、衝動、自制心…青年は微妙に揺れつづけたあと、やがてある岐路を迎えて決断をくだす。
 …ほんとうはもう少し先まで読んでいるのだが、今日はこのくらいにしておこう。