ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Siri Hustvedt の “The Summer without Men” (3)

 自分が昔書いた "What I Loved" のレビューを読んで、そうそう、たしかにこんな作品だったな、と思い出すほど記憶力のわるいぼくだが、それでもこの "The Summer without Men" は、読みだしたときからすぐに、何だか Joseph O'Neill の "Netherland" と同じような話だな、とピンときた。どちらも「配偶者との別れをきっかけに主人公が内なる彷徨を始める作品」だからだ。
 ついで思い出したのが Joanna Kavenna の "Inglorious" で、これはある女が母親の死後、「内なる彷徨を始める」物語。さらに、「精神的危機」というキーワードで今までのぼくのレビューに検索をかけたところ、Michael Thomas の "Man Gone Down" が出てきた。妻子と別れた男が「魂の試練」にさらされる話である。そういえば、07年のブッカー賞受賞作、Anne Enright の "The Gathering" も「最愛の人間を亡くしたときの空虚な浮遊感」がテーマでしたね。
 次に検索ワードを「絶望」に変えてみたら、これはもう、いちいち列挙するのをはばかるほどたくさんの作品が引っかかった。われながら、今まで陳腐な評言を連発してきたものだとイヤになったが、中にはきっと、この "The Summer without Men" などと同じく、家族との何らかの別れが絶望に結びついているものもあるにちがいない。
 そこで思ったのだが、「絶望および絶望からの脱出」はもしかしたら、現代英米文学のおもなテーマのひとつになっているのかもしれない。しかも、その絶望の最たる原因は「家族との何らかの別れ」にある、というのが特徴では。どうも平凡な発見のような気もするけれど、今まではっきり意識したことはほとんどなかった。偶然だが、「家族との別れがもたらす絶望とその克服」といえば、今年の、いや今後の日本人のテーマのひとつかもしれない。
 …話が大きくなりすぎて、今日はもう考えがまとまらなくなった。"The Summer without Men" の次に読んだ Denis Johnson の "Train Dreams" にも家族との別れが出てくるので、明日あたり、同書の落ち穂拾いの駄文にでもこの続きを書くことにしよう。