ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Denis Johnson の “Train Dreams” (2)

 この時期は例年、各メディアが選んだ優秀作品の中から読む本を決めることが多い。ぼくの基準は簡単で、(1) ペイパーバック化されているもの。(2) カバーやタイトルが魅力的。(3) あまり長くない。といったところ。内容の紹介記事やレビューはほとんど読まない。本書の場合は (2) の「見てくれ買い」というやつだった。ハードカバーだけど中編小説ですしね。
 Denis Johnson といえば、07年の全米図書賞受賞作 "Tree of Smoke" が有名だが、ぼくは未読。600ページを超える大作だし、この賞の受賞作にはけっこう外れがあるのでパスした。"Train Dreams" を読んだ今も、あまり catch up しようとは思わない。今回の「見てくれ買い」が空振りだったからだ。
 タイトルと関連しそうな箇所を引用しておこう。'And three years later, he lived in his second cabin, precisely where the old one had stood. Now he slept soundly through the nights, and often he dreamed of trains, and often of one particular train : He was on it ; he could smell the coal smoke ; a world went by.' (p.76)
 山火事で妻子を亡くした男が、小屋を建てなおして住んでいる。近くを列車が走り、男は鉄道工事に従事したこともある。「男は長生きし、生態系の変化や世の中の変遷を実感」。このくだりをはじめ、「おそらくアメリカ人なら反射的に郷愁をかきたてられる、心の原風景」が広がる小説である。だから、あちらでは「メディア露出度」ベストテンに入るほど評判がいいのかもしれない。裏表紙にも、'Denis Johnson may be the best American writer now working.' という (他の作品についての) 引用記事が載っている。
 しかしぼくには、どうもピンとこなかった。「ほら話のたぐい」に「思わず笑ってしまったり、ストイックな男の深い悲しみにしんみりしたり」したのは事実だが、それでも「心から共感を覚えたとは言えない」。その理由は、ぼくが日本人だから、という「彼我の差」もあるけれど、それだけではない。が、この点を説明すると長くなりそうなので、今日はもうおしまい。