ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Jesmyn Ward の “Salvage the Bones” (2)

 雑感にも書いたとおり、本書は全米図書賞というメジャーな賞を取ったわりには、少なくとも昨年末の時点では英米の各メディアからほとんど無視されていた。今回読んでみて、ぼくなりに受賞理由と、それから黙殺の理由もわかったような気がする。
 まず、これは構成としては、かなりよく練られた作品だと思う。主人公である娘の「心中の嵐と対応して、実際にもハリケーンが吹き荒れ……町の破壊と娘の傷心が重なり、そのあと『再生への希望』が示される」。そのハリケーンが2005年に大変な被害をもたらしたハリケーンカトリーナであるという話題性も得点材料だったのかもしれないが、それは些末な問題だ。「心の嵐」と実際のハリケーンをうまく配置しながら「疾風怒濤の青春時代を描いた」ところに本書の核心がある。それを高く評価したのなら、受賞もいちおう理解できる。ほかの候補作、とりわけ "The Tiger's Wife" とくらべなければ、ですけどね。
 それから、カバー絵にもなっているように、娘の兄が飼っている闘犬 China の扱い方がとてもいい。子供と動物との交流もまた青春小説の定番のテーマだが、この犬は本書の「影の主人公」と言ってもいいほど活躍する。明らかに好感度大。選考委員の中に、よっぽど犬好きの人がいたのでしょうかね。
 それにひきかえ、ほんとの主人公、娘の「心の嵐」のほうはありきたりで、そりゃ、高校生なのに妊娠すれば大変なのはわかるけど……相手の少年とのすったもんだを読むとガックリくる。あまりに図式的な人間関係ではないですか。
 ともあれ、本書は「構成としては、かなりよく練られた作品」なのに、「ハリケーンが襲来して一気にボルテージが高まる」という主筋から、「再生への希望」というメッセージから、「何もかもほとんど定石どおり」。これならメディア露出度も低いはずです。