David Bezmosgis のことも、本書読了後、巻頭の紹介記事をながめるまで思い出さなかった。そうそう、"Natasha and Other Stories" の作者でした。ただ、短編集のほうは、恥ずかしながらずっと積ん読中なので、ピンと来なかったのも無理はない。たしか邦訳が出ているような気もするが、はっきり憶えていない。
この "The Free World" は去年、ギラー賞の下馬評では本命視されていた作品だ。その情報をキャッチしたのが発表直前で、あわてて買い求めたものの、フタをあけると周知のとおり、Esi Edugyan の "Half Blood Blues" が受賞。以来、これまた積ん読中のところ、今になってようやく取り組んだというわけである。
これはかなりいいですな。ぼくの評価は久しぶりに☆☆☆☆。それにひきかえ、"Half Blood Blues" のほうは☆☆☆★★だった。ほかの候補作で読んだのは Patrick deWitt の "The Sisters Brothers" (☆☆☆★★★)と、Michael Ondaatje の "The Cat's Table" (☆☆☆★)。あとまだ2冊読み残しているが、たぶん上の下馬評は正しかったのではないでしょうか。
コメディーがあれば悲劇もあり、しんみりする話あり、はたまた犯罪がらみのアクションあり。ロシアの現代史も駆け足で勉強できるなど、ひと粒でいろんな味を楽しめる作品だが、ぼくがいちばん共感を覚えたのは、「宙ぶらりんで中途半端な自由、先行きの不安定な仮住まい生活こそ、じつは自由世界の実態なのではないかと思えるところ」である。
自由をテーマにした小説というと、今まではとにかく深刻な作品が大半を占めていたように思う。その自由とは、ドストエフスキーが追求したような人間の根元的な自由や、全体主義国家において剥奪された自由、つまり政治的自由を意味していたからだ。とりわけ現代小説の場合、後者が多かったのではないだろうか。
ところが、本書で描かれた自由は上のとおりである。軽いといえば軽いが、この軽妙さ、いい加減な人生しか送っていないぼくには、かえって身につまされた。それが高い点数をつけたいちばんの理由ですね。