ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

David Bezmozgis の “The Free World” (1)

 今日は話題の映画、『ドラゴン・タトゥーの女』をかみさんと一緒に観に行ったあと、帰りの電車の中で、昨年のギラー賞最終候補作、David Bezmozgis の "The Free World" を読みおえた。一杯やりながらではあるが、さっそくレビューを書いておこう。

FREE WORLD

FREE WORLD

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[☆☆☆☆] 日本人にとって自由とは、いまさら言うまでもなく空気のようなものだ。しかし本書を読むと、自由の意味をあらためて思い知らされ興味ぶかい。ブレジネフ時代の旧ソ連、ラトヴィアからユダヤ人一家がイタリアへ。といっても、政治的自由を求めたり、迫害から逃れようとしたりしたわけではなく、移住の動機はすこぶる不純。金儲けや気ままな暮らしを望む息子たちが決めたもので、共産党幹部の老父サミュエルも恥をしのんで亡命につきあう。が、当初の目的地アメリカ行きは頓挫し、ローマで足どめ。この宙ぶらりんで中途半端、不安定な仮住まいこそ、じつは自由の現実と本質なのでは、と思えるところがおもしろい。そもそもサミュエルには精神的自由がない。将来の希望もなく過去に縛られ、第二次大戦で戦死した弟の思い出など悲痛な体験が胸によみがえり、切ない。長男カールと次男アレックの行状には、自由と責任という定番のテーマが読みとれる。アレックは軽薄なプレイボーイで、カールともども不倫現場を押さえられるくだりなど抱腹絶倒ものだが、人生を甘く見たツケがまわり、彼らは緊迫したノワールな世界に突然放りこまれる。ことほどさように悲喜こもごも、自由にまつわるドラマは多岐にわたり、自由に生きようとすればするほど、ひとはその危うさ、むずかしさ、こっけいさなど、さまざまな局面に出会う。本書はそうした自由の現実の一端をみごとに誇張して描いた特筆すべき作品である。