ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Penelope Lively の “How It All Began” (2)

 これはいかにもイギリス小説らしい味わいの小説だ。冒頭こそアクションがあるけれど、あとはとにかく各人物のキャラクターをじっくり練り上げ、その関係を少しずつ紹介していくだけで物語が進む。べつに文学的に深いテーマを追求するわけでも、波瀾万丈の展開があるわけでもないが、なにしろ語り口が洗練されていて、活発でウイットに富んだ会話が楽しく、人物のからみ具合もおもしろい。起きる事件はどれも日常茶飯、せいぜいコップの中の嵐にすぎない「小の説」。それがイギリス文学のすべてだとは言わないが、少なくともこの種の小説が脈々と書きつづけられていることは事実だろう。
 ちょっとした人生の真実がちりばめられているのも、「いかにもイギリス小説らしい味わい」のひとつである。Why had these particular moments lodged? Well, lodge they have, and thanks be. Without them, one would be―untethered. What we add up to, in the end, is a handful of images, apparently unrelated and unselected. Chaos, you would think, except that it is the chaos that makes each of us a person. Identity, it is called in professional speak. (p.203) なるほど、なるほど。おじいちゃんには思い当たるフシが多々あります。
 本書はアマゾンUKで Summer Reading の一冊に挙げられている。風の噂どおり、今年のブッカー賞のロングリストに選ばれるかどうかはさておき(その可能性は十分にあると思う)、緑陰でしばし英文学の伝統にふれてみるのも一興だろう。