ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Narcopolis” 雑感 (2)

 「だんだん盛り上がるのを期待するしかありません」と昨日書いたのがよかったのか、中盤に入ってけっこうおもしろくなってきた。序盤では各エピソードがさほど熟さないまま焦点が移動し、雑然としたピンぼけ状態だったが、ボンベイのアヘン窟の経営者 Mr Lee が中国から亡命する前、文化大革命の渦中に巻きこまれた当時のことを回想するあたりから物語が一定方向へと流れだし、文体も明らかに変化。ここへたどり着くまで、正直言ってかなり退屈だった。
 今は終盤に差しかかったところだが、ふりかえると売春婦(元男性で正確には eunuch) の Dimple は、主人公とは言えないまでも、中心人物のひとりであることは間違いない。Mr Lee の死後、Dimple が売春宿を飛びだし、転がりこんだ先が Rachid のアヘン窟。そこの客の Rumi も大活躍、というか大事件を引き起こす。
 この3人、いや Mr Lee もいれると4人が主な人物で、4人ともアヘンをよく吸うのが共通項。それから夢の話も多く、現実と夢が重なるシュールな場面もある。こういった点から浮かびあがるのは、タイトルどおり Narcopolis つまり〈麻薬都市〉ボンベイのなかば幻想的な現実である。猥雑、混乱、不潔、貧困、犯罪、そしてもちろん麻薬の街。「幻想的」というのは、主な時代が1980年代の初めに設定され、描かれている現実が、今やムンバイと呼ばれる実際の街の風景とはおそらく異なることも関係しているかもしれない。