ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

Louise Erdrich の “The Round House” (2)

 今年の全米図書賞候補作を読むのはこれで2冊目だが、Junot Diaz の "This Is How You Lose Her" と同じく、いやそれ以上に本書も〈アメリカ的シーン〉に充ち満ちている。ネイティブ・アメリカン居留地で事件が起こり、事件の背景に、白人による迫害と差別の歴史があるからだ。作品そのものの出来もさることながら、物理的にしろ精神的にしろ、アメリカの原風景がいかにえがかれているか、というのも全米図書賞の選考基準であろうとぼくは勝手に推測している。その点、本書はいかにもこの賞にふさわしい候補作と言えるだろう。注文する前、シノプシスをちらっと読んだときは気がつかなかった。
 雑感とレビューをつきあわせれば、だいたいどんな話かは察しがつくはずだ。ここで起きた事件とその後の展開は、一種のミステリ仕立てになっている部分があり、すでに書いた以上にネタを割るわけにはいかない。それゆえ奥歯にものがはさまったような言い方になってしまうが、とにかくここには、少年たちのドタバタ騒ぎや恋愛沙汰といった、いかにも青春小説らしい要素にくわえ、「通常の青春小説とは異なる重みがある」。その重みがミステリと関係し、え、そんな事情が背景にあるのなら、この先いったいどうなるのだろう、と思っていたところ、冒頭以上に衝撃的な事件が発生。起きてみると、たしかにこれしかありえないのだが、それにしても驚きましたね。
 ただ、そのあと「ボルテージが下がっ」てしまった。どこをどう修正すればいいのかはむずかしいが、少なくとも、最大の山とその余韻で締めくくるべきではなかったかと思う。
 ともあれ、ぼくの粗雑な紹介からはとても想像がつかないほど、これはいろいろな要素が詰まった、まさしく「重層的な作品」である。大家 Louise Erdrich、健在なり!