ビンゴー・キッドの洋書日記

英米を中心に現代から古典まで、海外の作品を英語で読み、論評をくわえるブログです

“Almost English” 雑感 (1)

 またまた、すっかりブログをサボってしまった。楽あれば苦あり。田舎でボンヤリ過ごしたのはいいが、そのあと山積していた仕事を片づけるのに追われ、おまけに夏風邪まで引いてしまった。このところ朝昼晩、一日の寒暖の差がかなりあるのも一因だが、それより何より歳のせいで身体の抵抗力がめっきり落ちている。いかんですなあ。
 さて、帰省中にやおら取りかかり、仕事の合間にもボチボチ読んでいるのが今年のブッカー賞候補作、Charlotte Mendelson の "Almost English" である。ボチボチというのは文字どおりボチボチで、短いシークェンスを1日にいくつか拾う程度。まるでカタツムリくんだが、そんな読み方でもけっこうおもしろい。
 主人公は2人かな。17歳の娘 Marina とその母親 Laura の出番がいちばん多い。この2人が交代で登場し、物語がさながら対位法のように(この喩え、正確かどうか、ちと不安ですが)同時に進行する。
 通奏低音(これまたあまり自信がない)はラブコメ、〈ファミコメ〉だろうか。ファミコメとは、ファミリー・コメディーというぼくの造語の省略である。自分でもヘンな表現だとは思うが、本書の大きな要素のひとつを要約すればピッタリのような気がする。
 Laura の義理の母親 Roszi は80歳。ハンガリー出身の3姉妹の2番目で、3人はロンドンの家に同居。それぞれ 'Dar-link', 'Vot-apity', 'old vom-an' などと口走るから、これがタイトルのゆえんかもしれない。
 Laura の夫 Peter は13年前に出奔。そのため Laura は、まだ幼かった Marina ともども Roszi の家に転がりこむ。医院の受付で働き、医師と不倫関係にあるが、どろどろしたものではなくコミカルだ。
 そんな Laura に最近、Peter がひそかに手紙を書いてきた。しぶしぶ再会してみると、忘れていた夫の魅力がよみがえってくる。
'Come on,' he says.
It is hopeless. She can smell him over here; the air is oily with capsules of sex. He must not come over. Please, she thinks. Save me.
His footsteps crunch on the ground. She presses her fingers into her eyes until the orange-grey shadows and softenings ache; she takes a shuddery breath, full of loathing. The pheromones are still doing their dirty work. He puts his hands on her shoulders.
'Laura,' he says. (p.226)
 きょうはここまで読んだが、ボチボチ読んでも十分おもしろい、という典型例のくだりだろう。